本研究により,口腔扁平上皮癌には,粘膜重層扁平上皮由来癌と,唾液腺由来癌が混在していることを明らかにした. 発生母細胞が異なる癌を,ひとくくりにして診断を行い,同一のプロトコールで治療を行っていることには問題であった.また,研究分野においても異なった癌を同一の癌として,その生物学的な特性を比較していた.肺癌(扁平上皮癌,腺癌,大細胞癌,小細胞癌)においては数十年前に解明されたことが口腔癌ではいまだ混沌としたままであった.一般に,唾液腺癌(腺様嚢胞癌や粘表皮癌)は口腔扁平上皮癌と比較すると,化学療法や放射線療法に抵抗性で,遠隔転移能が高く,予後不良であるとされている.さらに,本研究が発展できると,体細胞性幹細胞由来の口腔扁平上皮癌の同定もできるようになる可能性がある.粘膜重層扁平上皮由来癌,唾液腺由来癌,体細胞性幹細胞由来癌を識別できる遺伝子候補が同定できれば,それらを利用しレトロスペクティブに臨床症例を解析し,口腔扁平上皮癌を3つのカテゴリーに分類することができる.それぞれのカテゴリーで生物学的悪性度(転移能など),臨床的悪性度(化学療法抵抗性,放射線療法抵抗性など)を検討すると,体細胞生幹細胞由来癌,唾液腺由来扁平上皮癌,粘膜重層扁平上皮由来癌の順に悪性度が高いことが予想される.さらに,これらの結果に基づいて,プロスペクティブに口腔扁平上皮癌を発生母細胞に基づいたより精度の高い診断を行い,より良い予後が期待できる治療方針が決定できると期待している.
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