研究課題/領域番号 |
25463135
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
前田 茂 岡山大学, 大学病院, 准教授 (50253000)
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研究分担者 |
樋口 仁 岡山大学, 大学病院, 講師 (30423320)
友安 弓子 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (40594809)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | レミフェンタニル / 炎症 / インターロイキン6 / サイトカイン / ストレス反応 |
研究実績の概要 |
われわれは昨年度までにLPSをマウスに投与した急性炎症モデルを用いて,レミフェンタニルの全身的な抗炎症作用を調べた。その結果,致死量のLPSを投与されたマウスに対して,生存率を有意に改善し,またLPSの投与量を減らした菌血症モデルでは血液中,肝臓および中枢神経のInterleukin-6レベルを減少させ,さらにストレス反応としてのcorticosteroneの上昇を抑制した。 このような結果を受けて,今年度は細胞を用いた研究を開始した。用いた細胞はマウスマクロファージ由来のRAW264.7および,ラットグリア細胞由来のC6であった。RAW264.7ではLPS投与3時間後より,培養液中IL-6の濃度が上昇し,48時間後まで上昇を続けた。そして,レミフェンタニルの抗炎症作用は3時間及び12時間の反応時間で調べたところ,いずれの時間においてもレミフェンタニルによる効果を認めることはできなかった。C6はLPS投与12時間後から培養液中のIL-6レベルの上昇を認め,36時間でほぼピークに達していた。12時間後と24時間後の時点でレミフェンタニルの効果を調べたところ,12時間後でレミフェンタニルによりIL-6の合成が抑制される傾向が見られた。 LPSは末梢投与であり,炎症は全身に及ぶものであるがこれに対するレミフェンタニルの保護効果は認められ,その機序は末梢の免疫担当細胞に対する効果よりも,中枢のグリア細胞などの免疫担当細胞を介したものである可能性が考えられた。中枢におけるIL-6はストレス反応を惹起し,体温中枢の刺激により体温のセットポイントを上げることが知られている。レミフェンタニルの抗炎症作用はこのような中枢神経における炎症反応を抑制することにより,末梢での炎症反応をコントロールし,生体を保護する作用を示すことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度はin vitroの実験を追加で行った後,培養細胞による抗炎症機序の解析に取り組むことにした。当初はボランティアの末梢血を遠心および磁気ビーズによって免疫担当細胞を抽出する予定であったが,末梢と中枢におけるレミフェンタニルの作用の違いを調べるために,培養細胞を用いることに変更した。 培養細胞はマウスマクロファージ由来のRAW264.7およびラットグリア細胞由来のC6を用いた。その結果,RAW264.7においてはLPSによるIL-6の反応を抑制することはなかったが,C6においてはIL-6の反応を抑制する傾向が見られた。つまりレミフェンタニルの抗炎症作用・生体保護作用は,末梢よりもむしろ中枢の炎症反応を抑制するという機序が関与する可能性が示唆された。 従来レミフェンタニルは強力なオピオイド受容体作動性鎮痛薬として,ストレス反応をコントロールすることにより,2次的に炎症性サイトカインの反応を抑制することは考えられてきたが,今回得られた結果から,中枢神経の免疫担当細胞へ直接作用し炎症反応を抑制することにより,ストレス反応をコントロールするという可能性が示唆されることとなった。このことはレミフェンタニルを単なる鎮痛薬として,侵害刺激に対する反応を抑制するという目的以外に,特に急性炎症に対する生体保護という目的で使用するという可能性が開かれることとなった。 以上のことは研究開始当初は想定しなかった結果であり,当初の計画以上の進展と判断することも可能であるが,当初の予定である局所炎症に対するレミフェンタニルの効果についての実験が進んでいないことを加味すると,現在までの達成度としては概ね順調に伸展しているという評価が適当であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在得られている結果は,致死量のLPSに対するレミフェンタニルの生体保護作用,菌血症モデルに対する抗炎症作用,そしてグリア由来培養細胞における抗炎症作用である。最終的に,レミフェンタニルは中枢神経系の免疫担当細胞に作用してストレス反応をコントロールすることにより,敗血症に対する保護作用を示すというストーリーを想定している。そのために今後行うべきことは,まず培養細胞を用いて追加実験を行い,実験結果を確かなものとすることである。次に,レミフェンタニルの作用機序をさらに細かく調べるため,オピオイド受容体のサブタイプである,mu-, delta-, kappa-それぞれの拮抗薬を用いてレミフェンタニルの作用を確定させる。 次に,当初予定していた局所炎症に対する実験を行う。局所炎症はカラゲニンをマウス後肢皮下に注射することにより誘導する。レミフェンタニルは浸透圧ポンプに満たし,皮下へ埋入する。つまりカラゲニンによる局所炎症に対する全身投与のレミフェンタニルの効果を調べることとなる。炎症の評価はHE染色およびIL-6の免疫染色により行う。期待される結果はレミフェンタニルによる局所炎症のコントロールである。単球由来の細胞培養の結果では,レミフェンタニルによる抗炎症作用は確認できていないため,局所炎症のコントロールが確認された場合には,その作用は中枢の炎症性サイトカインのコントロールと,それに伴うストレス反応の抑制による局所炎症のコントロールという機序が考えられることとなる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初行う予定であった局所炎症に対するレミフェンタニルの効果を調べる実験が実施できていないため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度には局所炎症に対するレミフェンタニルの効果を調べる計画である。
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