研究実績の概要 |
交感神経活動亢進は身体・情動ストレスで起こる.非定型歯痛(atypical odntalgia,AO)のストレス負荷時の交感神経活動変化を検討した.自律神経活動評価は心電図RR間隔変動をフーリエ変換してスペクトル解析で行った.ストレス負荷がない状況ではAO群とcontrol群の交感神経活動に差はなかった.同様に身体ストレス後の交感神経活動亢進も両群に差はなかった.しかし,情動ストレスに対してはAO群でより大きな交感神経活動亢進を認めた.自律神経活動の調節は視床下部室傍核を介して行われる.視床下部室傍核は大脳辺縁系,前頭前野の上位脳と中脳,橋,延髄孤束核までの延髄の下位脳幹の双方とネットワークを持ち、中枢自律神経線維網を構成する.視床下部室傍核に伝えられる情報は身体ストレスと情動ストレスでは異なった経路をとる.身体ストレスは生命危機回避のため,迷走神経を介して孤束核に伝えられた身体情報は,直接視床下部室傍核に到達する.情動ストレスには即時の生命危機はないが,より高度な情報処理が上位脳でなされる.情動ストレスは大脳皮質で処理され大脳辺縁系である扁桃体や分界条床核に伝えられ,視床下部室傍核を賦活させる.不安,恐怖などの情動中枢は大脳辺縁系にある.AO群の情動ストレスに対する交感神経活動亢進に大脳辺縁系の機能変調が考えられる.情動ストレス負荷時の前後半を比較した結果,control群では後半で有意に低下したのに対してAO群では低下はなかった.情動ストレスの予測は情動ストレスの認知情報処理過程に影響を与える.生体は情動ストレスによる心身への影響軽減のために,情動的な防御態勢を作る. その中心的な役割を果たすのが前頭前野である.AO群は前頭前野による情動ストレスへの適応機能障害が推察される.
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