歯科治療後の体位変換や起立動作により生じる一過性の血圧低下からの回復遅延は,眩暈やふらつきを誘発し,転倒による重大な偶発症を招く可能性がある.しかし,静脈内鎮静後の平衡機能等の回復に関する研究は多数あるものの,血圧を維持する心循環調節機能の回復に関する研究はほとんど行われていない.そこで今回,「ミダゾラムおよびプロポフォール鎮静後の循環調節機能を経時的に評価することで,静脈内鎮静により減弱した心循環調節機能の回復程度および回復時間を明らかにする」ことを目的とした.その際,体位変換等により生じる一過性の血圧低下を模擬し,より臨床に即した研究データから全身的偶発症の防止に貢献する新たな知見を提示する. 3ヵ年の実験計画の期間中,初年度に賠償責任保険加入等の準備期間を設けた.本研究内容は,本学倫理委員会による承認を受け,更にUMIN臨床登録システムへ登録した(ID:UMIN000012787). 平成26年度は「ミダゾラムによる心循環調節機能の減弱作用の消失(回復)過程」の検討を行った.その際,鎮静薬の半減期を考慮し,鎮静後20分,40分,60分,80分まで循環動態の変化を評価した. 引き続いて,平成27年度は「プロポフォールによる心循環調節機能の減弱作用の消失(回復)過程」の検討を実施した.その際,鎮静薬の半減期を考慮し,鎮静後10分,30分,50分,70分まで循環動態の変化を評価した. 結果,ミダゾラムおよびプロポフォール鎮静共に,鎮静直後は心循環調節機能が減弱するが,その減弱した心循環調節機能は30~40分経過後には回復する傾向が認められた.また鎮静深度(主観的評価と客観的評価)と循環調節機能の回復の間に,時間的なズレが生じている可能性が示唆された.更なる詳細なデータ解析を実施し,関連学会へ発表した後,論文にて報告する予定である.
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