研究課題/領域番号 |
25463154
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
青葉 孝昭 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (30028807)
|
研究分担者 |
島津 徳人 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (10297947)
柳下 寿郎 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (50256989)
佐藤 かおり 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (90287772)
田谷 雄二 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (30197587)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 歯学 / 病理学 / 扁平上皮癌 / 癌微小環境 / 血管新生 / リンパ管新生 / リンパ節転移 |
研究概要 |
癌微小環境の構成要素として、腫瘍実質に加えて脈管、間質細胞(線維芽細胞、炎症性細胞等)、細胞外基質、分解酵素などを含んでおり、多要素間の相互作用が癌の生物学的性質を規定している。本研究では、口腔癌の浸潤転移機構の解明と悪性度組織診断指標の確立を目指して、腫瘍微小環境の構成要素(腫瘍細胞、血管・リンパ管内皮細胞、筋線維芽細胞、マクロファージ、骨髄由来前駆細胞)を免疫表現型と空間位置情報に基づき分画した上で、それらの細胞間相互作用を網羅的に解析する。 初年度の今回、所属リンパ節転移や遠隔転移を示した口腔扁平上皮癌(舌癌)の原発病巣を解析対象として、癌胞巣形状(サイトケラチン;CK)や癌病変全域における脈管新生(血管内皮マーカCD31、CD34、CD105、リンパ管内皮マーカD2-40)を捉えるため、連続薄切標本(4μm厚;~100枚)に対する多重免疫標識と立体構築法を用いて細胞間相互作用を複合的に解析した。舌癌浸潤先端部の3次元観察では、CK陽性癌細胞母集団の近隣において1~10個程度の癌細胞で構成された微小浸潤胞巣が間質中に分散しており、癌細胞の単細胞浸潤や集団浸潤の共存がみられた。間質要素に関しては、癌胞巣内外を走行する血管内皮の表現型が変化に富むこと、また、抗腫瘍作用を示すM1マクロファージと腫瘍増生の促進に働くM2マクロファージを各々CD68、CD163発現で判別することにより、血管を介して癌浸潤先端部に集積するマクロファージの分布が異なっていることも確かめられた。今回の3次元形態計測により、腫瘍実質・間質境界における癌微小浸潤様式として単細胞遊走と集団遊走の発生頻度と免疫表現型の特徴、これらの癌微小浸潤胞巣を先導する筋線維芽細胞(CAF)、癌細胞と脈管内皮細胞を橋渡しするマクロファージ(TAM)の局在を明らかにできた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3次元腫瘍微小環境における癌実質・新生脈管・間質間での細胞間相互作用を解析するうえでは、これらの細胞群・標的分子の空間位置情報について同時観察できることが望まれる。この実現に向けて、研究代表者らがこれまでに確立してきた癌細胞表現形質マーカの多段階・多重免疫標識に基づく分画法を腫瘍微小環境の構成要素に拡張した条件を設定した。最初に全構成細胞の核質をヘマトキシンで染色し、個々の核質の空間座標情報をラベリングした後に、それぞれの細胞核と連結する免疫表現型マーカを指標として、癌細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、マクロファージ、線維芽細胞を同定した。複数の表現型マーカ発現を組み合わせた応用例として、FSP1陽性/αSMA陰性を線維芽細胞、FSP1陽性/αSMA陽性を筋線維芽細胞と細分画・定義することも実現できた。さらに、3次元空間での位置情報に基づいた設定として、脈管内皮では、間質空間で互いに連結して脈管壁を構築している内皮細胞と間質中に分散・孤立している内皮前駆細胞との区別、またαSMA陽性細胞集団の例では、間質に独立して局在する場合を筋線維芽細胞、脈管内皮に隣接して脈管壁を構築する場合を周皮細胞として区別することも可能となった。同様の工夫により、細胞間の空間位置情報に基づいて、遊走する癌微小胞巣に隣接する筋線維芽細胞をCAF、癌細胞・内皮細胞と隣接するCD163陽性マクロファージをTAMとして分画できると考えている。本研究の目標として、3次元癌微小環境において癌胞巣形状と癌細胞の免疫表現型の変化、間質構成要素との相互作用、脈管内侵襲を包括的に捉えることにより、新たな悪性度診断指標を定めることを掲げている。この達成に向けても、血管腔・リンパ管腔に位置する細胞集団について、上皮形質(CK、Eカドヘリンなど)を維持した癌細胞と上皮形質を示さない細胞(ビメンチン陽性)の可視化・定量化が可能であると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度に確立した腫瘍実質・間質の組織立体構築法により、ヒト口腔癌全摘症例の組織試料を対象とした病理形態学的な細胞間相互作用の解析が進められる。今回の3次元組織解析結果では、癌細胞が脈管を含む間質組織環境を構築しながら、単一細胞あるいは集団で浸潤していくことが想定された。次年度においては、この腫瘍微小環境における癌細胞動態を制御する細胞間相互作用に着目して、隣接する細胞間の直接接触とchemokine-axisによるシグナル伝達に注目する。これらの構成細胞間に働くchemokine-axisについては、CCL22-CCR4と舌扁平上皮癌のリンパ管侵襲との関わりに注目して、腫瘍実質・間質でのリガンド(CCL22)・受容体(CCR4)を発現する細胞を同定する。癌微小環境におけるリガンド・受容体の局在に基づき、癌細胞におけるオートクライン回路、近接するTAM-癌細胞-リンパ管内皮細胞間でのパラクライン回路についても検証する。特に、口腔癌の浸潤転移に繋がる悪性形質の診断指標を確立する目的では、腫瘍母集団からの空間距離を座標軸として、間質細胞に囲まれた微小浸潤胞巣と脈管内に侵襲した癌細胞の出現頻度と免疫表現型の推移(上皮形質の維持・喪失)について明らかにする。 さらに、これらの舌癌症例について、癌病変全域(リンパ節転移症例では原発病巣と転移病巣を比較)におけるHIF1α発現を指標とする低酸素環境、癌胞巣形状(サイトケラチン)、脈管新生(活性型血管内皮細胞マーカであるCD105、リンパ管内皮マーカのD2-40)、炎症・免疫応答(CD45、CD68、CD163)を捉えるため、病変全域の薄切標本に多重免疫染色を実施する。以上の解析はまず2次元組織診断で判定されたEMT様の表現型を示す癌胞巣領域、腫瘍脈管新生部位、M2マクロファージと筋線維芽細胞の集積部位を解析領域として、連続薄切標本の多重免疫標識による3次元形態解析を実施していく。
|