研究課題/領域番号 |
25463157
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
川口 浩司 鶴見大学, 歯学部, 准教授 (50277951)
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研究分担者 |
藤原 久子 鶴見大学, 歯学部, 助教 (80396746)
山田 浩之 鶴見大学, 歯学部, 講師 (90267542)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 骨造成 / 間葉系幹細胞 / 骨芽細胞 |
研究概要 |
口腔外科の臨床において、外傷や腫瘍切除後によって生じた組織の欠損に対して骨を造成したり、デンタルインプラントを埋入する際に、歯槽骨(歯茎の骨)が足りない場合に、従来から自家組織移植や人工材料を用いた骨造成が行われてきた。これらの手術方法は比較的安定した治療実績を持つ優れた方法ではあるが、欠損部が大きい場合には充分な骨造成を得られず、骨の質や量が必要なレベルまで得られないことが往々にしてある。更に、自家組織移植では組織採取部位に新たな組織欠損や瘢痕を生じる事が課題であり、人工材料の移植では、感染や異物反応による人工物の吸収・露出など、長期予後については不明な点が多い。再生医療による骨造成についても、未だに手技が確立されていないことから、より安定した骨造成のためには、現行の自家骨移植における骨造成率を限りなく促進させることと、骨吸収率を最小化させることが現実的である。 アポトーシスの指標の1つであるPARP (poly ADP-ribose polymerase)は、遺伝子安定性や細胞死誘導、細胞間シグナル、細胞の分化など、多種多様な生命現象に関与していることが分かっており、現在その研究をすすめている。その中で、PARPの間葉系幹細胞から骨芽細胞分化への関与を示唆する実験結果が得られた。この結果から着想を得て本研究では、骨芽細胞への分化にPARPが関与していると仮説し、PARP活性の阻害や強制発現による骨芽細胞への分化や骨造成の変化を検証する。同時に遺伝子発現の変化について網羅的検索を行い、骨芽細胞の分化や骨造成のメカニズムを解明することによって、得られた結果を手術の際に必要な骨造成に応用したり、骨の代謝異常が原因となっている疾患の治療法の新規開発の一助となることを目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
間葉系幹細胞は、ラット大腿骨の骨髄由来の幹細胞を用いている。間葉系幹細胞を骨芽細胞への分化メディウムを用いて分化させたところ、PARP阻害剤を添加することによって分化が遅延されることが分かった。そのため、骨芽細胞への分化のメカニズムにおいて、どの要素が関与しているのかを検証するためにRT-PCRを行い、骨分化マーカーの発現を調べた。その結果、それなりの結果が得られたため、PARP阻害剤の投与濃度と細胞の継代数を変えて,比較検証した。その結果、MSCの継代が上がるにつれて、すなわちMSCが老化するに従って、PARP阻害剤によってMSCの骨芽細胞への分化の遅延が増強することがわかり、老化との関連が示唆された。 次にMSCにPARP発現ベクタ―を組み込み、PARP阻害剤による影響が発現ベクタ―によって解消されるかどうかについての実験系について、発現ベクタ―の組み込み率が低く、エレクトロポレーションが難航している。さらに、発現ベクタ―が組み込まれたと考えられるMSCの増殖が悪く、解析に必要な数の細胞を得られていない。ES細胞では発現ベクタ―の組み込み率は10%程度だったのだが、細胞による違いがあるのかもしれないと考え、現在発現ベクタ―の再設計を行っている。従って、研究の進行としてはやや遅れていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、PARP発現ベクタ―の再設計および再作製を引き続き進行させている。これにより、PARP発現ベクタ―のMSCへの導入が効率的になされるようになれば、従来の予定通り、PARP阻害剤による骨芽細胞への分化がPARP発現ベクタ―によるPARP活性の回復による影響について比較検証できると考えている。しかし、ベクターとMSCとのいわゆる相性の問題もあり、PARP発現ベクタ―導入MSCの作製が出来ない場合は、この検証方法は困難と判断し、動物実験モデルを用いた研究を先に着手する予定である。 まず、ラット頭蓋骨骨移植モデルにおける骨造成能へのPARP活性の関与を検討する。「ラット頭蓋骨骨移植モデル」を用いてPARP阻害剤の有無による骨造成能の比較検証を行う。ラット頭頂部にラット間葉系幹細胞を移植する。ラットへのPARP阻害剤投与の有無によって2グループに分けて、PARP阻害剤による骨形成の違いについて比較検証を行う。ラットには連日PARP阻害剤PJ34を腹腔内投与し、1週間ごとにカルセイン染色による解析を行う。細胞実験の結果より、動物実験においても、PARP阻害剤を添加することによって骨造成能が低下すると予想している。 更に造成させた骨は通法通り、①画像検査(単純X線撮影・動物用マイクロCT)、②HE染色、③免疫染色を行い解析する。画像検査ではマイクロCTを用いて、造成した骨量を計測すると共にCT値を計測し、骨強度を計測する。免疫染色は、骨関連因子のBMP2,Osteocalcin, Osteonectin, Osteopontin, ALP, Sialoproteinなどを予定している。1切片に対して1抗体で免疫染色を行うが、連続切片を用いることにより遺伝子発現の局在から因子間の相互作用を示唆する所見が得られれば、多重染色を行って検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
MSCにPARP発現ベクタ―を組み込み、PARP阻害剤による影響が発現ベクタ―によって解消されるかどうかについての実験系を行っているのだが、発現ベクタ―の組み込み率が低く、PARP発現ベクタ―導入細胞の樹立が難航している。発現ベクタ―が組み込まれたと考えられるMSCの増殖が悪く、解析に必要な数の細胞を得られていない。ES細胞では発現ベクタ―の組み込み率は10%程度だったのだが、細胞による違いがあるのかもしれないと考え、現在発現ベクタ―の再設計を行っている。そのため、発現ベクタ―の導入や、細胞の培養に当初の予定以上の経費が掛かっているが、比較的高額な費用を要する骨分化マーカーの解析が進んでおらず、RT-PCRを行っていないことから、353,975円の助成金が次年度使用額として生じている。 平成26年度は、PARP発現ベクタ―の再設計および再作製を引き続き進行させている。これにより、PARP発現ベクタ―のMSCへの導入が効率的になされるようになれば、従来の予定通り、PARP阻害剤による骨芽細胞への分化がPARP発現ベクタ―によるPARP活性の回復による影響について比較検証できると考えている。従って、繰越金の358,975円はベクターの再設計およびエレクトロポレーション、その後の細胞培養と発現解析に必要な試薬や培養液を購入する予定である。
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