近年、脳梗塞の急性期治療において血栓溶解剤や血管内手術などを用いた血流再開療法が大きく進歩している。とりわけ虚血性脳卒中の治療においては、1.一過性脳血管閉塞による非致死的虚血/再灌流傷害、2.一過性脳血管閉塞による致死的虚血/再灌流傷害、3.永久的脳血管閉塞による致死的虚血傷害、を含む少なくとも3つの主な病態を考慮する必要がある。我々は、これまでマウス大脳皮質梗塞巣に神経幹細胞(傷害誘導性神経幹細胞 : injury-induced neural stem cells; iNSCs)が誘導されることを発見し、その起源が血管周皮細胞(pericytes)であることを報告した。今回、マウス大脳皮質脳梗塞モデルを改変した一過性脳虚血/再灌流モデルを用い、致死的あるいは非致死的虚血負荷における内在性神経再生の有無と、新生神経細胞の起源を解明することを目的とした。研究結果から、30分間以上の一過性虚血負荷により致死的傷害が発現することが明らかとなった。15分間の非致死的虚血/再灌流傷害においてもiNSCsの発現を認め、細胞数は少ないものの致死的虚血負荷により誘導されることが明らかとなった。さらに、このような病態下において誘導されるiNSCsは脳ペリサイトを起源とし、in vivo、in vitroにおいてニューロンを産生する能力を持っていることがわかった。脳血管ペリサイトはBBB/neurovascular unitの構成細胞として正常脳の機能維持に重要な役割を果たしている細胞であるが、ひとたび虚血に陥ると内在性神経幹細胞として脳の再生起点に働く細胞となり、脳梗塞の再生療法に大いに活用できる細胞であると考えられる。
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