初年度に開発した嚥下時舌運動測定用アプリケーターを用いて、個性正常咬合者および外科的矯正治療の適応症と診断された骨格性下顎前突症患者を対象とし、嚥下時の舌運動を超音波測定装置を用いて測定・解析を行った。 被検食は無味の水ゼリー約4.0ml(トロミドリンク、日清オイリオ)とし、嚥下姿勢は座位で探触子を顎下部に接触しやすいように、頭部をやや後屈させた状態とした。被検食を舌上に保持させ、これを一度で嚥下するように指示した。測定は舌中央部、右側縁部、左側縁部をそれぞれ5回測定し、嚥下時間、嚥下様相を評価した。超音波診断装置に探触子を接続後、アプリケーターを用いて、舌前額断中央部をBモードにて検索後、B/Mモードにてゼリー嚥下時の舌運動を記録した。Mモードで舌中央部と舌側縁部断面を描出し、舌中央部の陥凹が生じた時刻から舌中央部、側縁部の形態が安静位の状態に戻るまでの時間を嚥下時間と定義した。 嚥下時間は正常咬合者において舌中央で平均1.03秒、舌側縁で1.05秒、下顎前突症患者では舌中央で平均1.255秒、舌側縁で1.61秒であった。 さらに、Mモードの舌背部の波形から陥凹形成時間、陥凹消失時間、陥凹消失から口蓋接触までの時間、口蓋接触時間、口蓋離脱から安静位までの時間および陥凹深度を測定した。その結果、下顎前突症患者は全ての時間が正常者と比較して延長していたが、特に陥凹消失から口蓋接触までの時間が著しく延長していた。超音波波形は舌中央部では個性正常咬合者と下顎前突者では顕著な相違は認められなかった。すなわち舌中央部が陥凹した後に、速やかに舌表面が上昇した。舌側縁部では個性正常咬合者では嚥下開始とともに速やかに舌表面が上昇するのに対し、骨格性下顎前突症患者では舌表面が上下動する多峰性波形が多く観察された。
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