研究課題/領域番号 |
25463182
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
長谷川 智一 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 講師 (50274668)
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研究分担者 |
吉村 善隆 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (30230816)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 乳歯 / 恒常性 / 歯髄 |
研究概要 |
[目的] 齲蝕や外傷における歯周組織および歯髄組織の再生機構および恒常性の維持には、修復制御機構について検討することが重要であると考えられる。そして再生に関与する間葉系幹細胞などの遊走制御機構の解析が不可欠である。SDF-1はケモカインファミリーの一つでCXCL12とも呼ばれている。その受容体であるCXCR4を介して、血管内皮前駆細胞や間葉系幹細胞の遊走に関与していることが報告されている。そこでヒト乳歯歯髄株を使用してSDF-1の発現調節機構について解析を行った。 [材料と方法] 1. SDF-1発現解析 FGF-2 の投与量および経時的効果を検討した。 2. 受容体および細胞内シグナル経路の検討 FGF receptorの阻害剤であるAZD4547を使用して検討を行った。細胞内シグナルの解析のため、MAP kinaseの阻害剤およびPI3 kinase経路の阻害剤を使用してFGF-2の影響を解析した。 3.増殖能の解析 FGF-2 20 ng/mlもしくは各種阻害剤を投与して増殖能の検討を行った。 [結果および考察] 歯髄細胞のSDF-1 mRNA発現を評価した。その結果、経時的にSDF-1の発現が増加した。しかしFGF-2 20 ng/mlの投与によって経時的に抑制された。またこの抑制効果はFGF-2 の投与後48時間後では投与量依存的であり、20 ng/mlでプラトーと考えられた。この抑制効果はFGFRの阻害剤であるAZD4547の投与によって消失したことにより、FGFRを介した作用と考えられた。またJNK, p38, MEK、またPI3 kinase経路の阻害剤を投与しても、FGF-2によるSDF-1の発現抑制効果を解除しなかった。さらにFGF-2および使用した阻害剤により増殖抑制が認められた。これらの結果を合わせると、増殖とSDF-1の発現が関係していることが考えられた。FGF-2などのサイトカインによるSDF-1発現の調節機構が明らかとなれば、歯髄組織だけでなく歯周組織における恒常性の維持機構について、間葉系幹細胞の遊走調節機構と融合した考察が可能と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歯髄および歯周組織の恒常性維持にSDF-1が働いている可能性が明らかとなった。現在ではFGF-2による発現抑制機構の解析を行っている。FGF-2の細胞内シグナルは多彩であるが、現在ではMAP kinase経路およびPI3 kinase経路を介せず、他の経路を介すことが明らかとなった。またFGF-2によって細胞増殖抑制も認められたことから、一度細胞に作用し、その後2次的な作用によって抑制効果が認められる可能性も考えられ、現在解析途中である。同様に、他のサイトカインによる発現調節機構の解析を行う予定である。 さらにサイトカインを介せずとも、細胞密度によってSDF-1の発現が正に調節されていることも明らかとなった。このことは、細胞間で膜表面たんぱく質による相互作用か、あるいは細胞一つ一つが産生するサイトカインがオートクライン的に作用している可能性が考えられた。こちらについても発現調節に関与するメカニズムの同定および解析を行う予定である。 以上の解析結果から、サイトカインだけでなく、新たなSDF-1の発現調節機構を明らかににできる可能性があり、このことから「おおむね順調に進展している」と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1. FGF-2によるSDF-1の発現抑制メカニズムの解析として、まだ検討の行っていない細胞内シグナル経路の解析を行う予定である。また2次的作用として、表現系としてSDF-2の抑制効果が認められる可能性も検討を行う。 2. 細胞密度によるSDF-1の発現促進機構の解析を行う。まずprimer array等によって関与する可能性のある候補遺伝子を絞り込む。その後、それぞれの遺伝子機能の阻害剤やsiRNA、発現ベクターによって、loss of functionおよびgain of functionによる検討を行う予定である。 3. 細胞間ネットワーク機構の解析: 外傷や歯周病などにおいて破壊が進行している組織では、急性炎症または慢性炎症によって局所のpHの酸性化、腫脹が生じると考えられる。そこには炎症や免疫系の細胞浸潤の遊走誘導により、様々な細胞が存在すると考えられる。2における細胞密度による遺伝子機能の発現調節も、異種の細胞との接触によっても生じる可能性があると考えている。そこで、2種類の細胞種の共存培養を行うが、その際、①接触して共存培養を行った場合、②非接触で共存培養を行った場合などの検討を行う予定である。 4. 外傷や矯正治療を行った場合、歯根膜や歯髄に物理的外力が作用している。今まで細胞培養系のツールとして、細胞を伸展させることしかできなかった。しかし本研究室では新たな方法による圧迫培養の系の開発に成功した。この方法により外傷や矯正治療を想定した解析を行う予定である。
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