近年発展の著しいCRISPR/Casシステムを用いたゲノム編集技術であるが、我々はヒト疾患モデル動物作製を目的として、マウス1細胞期におけるマイクロインジェクション法によるCRISPR/Casシステムの適用に加え、エレクトポレーション法による導入、さらにはssODNの共導入によるノックインマウスの作製まで確立した。 しかし、配列破壊が極めて高効率なため、ホモ接合体で致死となる遺伝子が対象の場合、F0世代獲得が困難であるといった不都合が生じた。そこで、2細胞期胚のうち、片方の細胞質にのみCRISPR/Casシステムを適用するといった検討を行うことで、その回避を図り、確実な変異体系統確保の手法確立を試みた。対象遺伝子には、生後すぐ致死となるFgf10、ならびにホモ接合体で不稔性を示すHoxA11、HoxD11を選択した。 結果として、そのホモ接合体で肺を欠損するFgf10 遺伝子を対象とした場合、必ず野性型アレルを含む成体マウスが得られた。その効率は、移植卵数において10%未満であった1細胞期胚での導入による変異体系統獲得率と比較し、60%を超えるに至った。生殖細胞系への伝達は現在確認中である。また、ホモ接合体で不稔性を呈するHoxA11ならびにHoxD11を対象に同様の系を適用したところ、やはり野性型アレルを含むモザイク成体マウスが得られ、野性型マウスと交配した結果、導入された遺伝子配列の変異は全てF1世代に伝達され、ヘテロ接合体が得られたことより、F0世代での不稔性回避の証明となった。
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