気管支喘息(Bronchial Asthma)はアレルギー反応や細菌・ウイルス感染などが発端となった気管支の炎症が慢性化することで気道過敏性の亢進,可逆性の気道狭窄を起こし,発作的な喘鳴,咳などの症状をきたす呼吸器疾患である.日本では1960年代は小児、成人とも有症率は1%程度であったものが近年増加の傾向にあり,数倍から十数倍程度増加しているが,気管支喘息の病態生理はまだはっきりしていない部分が多い. 軸索反射などで,C線維の末端から放出される神経タキキニンは,平滑筋収縮(気道収縮,気管支収縮),血管拡張(皮膚発赤,血流増加),血管透過性亢進(血漿蛋白漏出による浮腫,粘膜の腫脹,皮膚の膨疹),粘液分泌亢進,肥満細胞活性化(ヒスタミン遊離)などの作用を示す.その作用はNK1,NK2 およびNK3 と呼ばれる受容体を介して発現する.研究代表者は一連の研究で,遺伝子導入を行いNK1Rを高発現させたヒト気管支平滑筋由来の初代培養細胞において,PDGF(Platelet-Derived Growth Factor)を作用させると増加する細胞増殖に係る分子であるリン酸化Aktが、代表的なタキキニンであるSubstance Pの前処理により抑制されることをWestern blot法にて確認した.また,BrdUの取り込みを利用した細胞増殖定量における実験においても、Substance Pの前処理によりPDGFによる細胞増殖の抑制を確認した.平成27年度は,NK1の細胞増殖抑制のメカニズムに係るより上流の分子を明らかにするため,腫瘍抑制因子として同定され,細胞増殖に深く関与するPTENをターゲットとしてSubstance Pを用いた実験を行ったところ,高いPTENホスファターゼ活性を認め,NK1が平滑筋細胞増殖抑制に強く関与する可能性を示す結果を得た.
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