研究課題
単球・マクロファージ由来の破骨細胞の形成には骨芽細胞との細胞間接触による分化促進作用が重要な役割を果たす。骨芽細胞は間葉系幹細胞(MSC)から分化することは既知であるが、MSCが破骨細胞分化に与える影響については明らかになっていない。本年度はMSCが分泌するペプチドSCRG1が破骨細胞分化に与える影響を検討した。最初に発現ベクターpSCRG1-FLAGを構築し、HEK293に導入して過剰発現させ、抗FLAG抗体アフィニティーカラム精製によって組換えSCRG1(rSCRG1)を作製した。得られたrSCRG1と可溶性receptor activator of nuclear factor κ-B ligand(sRANKL)でマウスマクロファージ様細胞Raw264.7を処理し、破骨細胞分化におけるSCRG1の影響を検討した。破骨細胞分化は酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)陽性かつ細胞融合による多核化が認められる細胞をカウントすることにより評価した。その結果、Raw264.7をsRANKL単独で処理すると効率良くTRAP陽性かつ多核の破骨細胞が形成された。しかしながら、sRANKLとともに rSCRG1でも処理すると破骨細胞の形成は有意に抑制された。このことからSCRG1は破骨細胞分化を抑制することが示された。破骨細胞分化促進作用をもつ骨芽細胞においてSCRG1の発現は大きく減少していることから、SCRG1を発現しているMSCは破骨細胞分化抑制作用をもつ可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に従い、本年度はSCRG1による破骨細胞分化の抑制を証明した。平成25年度の研究成果と併せ、炎症性骨吸収の場における間葉系幹細胞の役割をSCRG1に着目して解明しつつある。これらの成果は本研究課題最大の目的である。したがって本年度の達成度は順調であり、研究全体もおおむね順調に進展していると判断した。
次年度以降はSCRG1の炎症性骨吸収抑制効果の発現メカニズムについて明らかにする。研究期間内にSCRG1の破骨細胞分化抑制効果ならびに破骨細胞前駆細胞の未分化能維持をin vitro・in vivo両者で明らかにする。in vitroにおいて1)破骨細胞分化を促進する細胞内シグナル伝達系(NFκB、c-fos/NFATなど)の活性化に対するSCRG1の抑制効果を検証しつつ、2)炎症性サイトカインの分泌や遊走能を評価することによって、SCRG1の破骨細胞前駆細胞の未分化能維持を検証する。さらに主として疾患モデル動物を用いたin vivoの実験系において3)SCRG1過剰発現MSCを歯周炎や慢性関節リウマチモデル動物に投与し、炎症性骨吸収の抑制効果や骨リモデリングに及ぼす影響を評価する。これらin vitro・in vivo両者における実験結果から、MSCで特異的に発現しているSCRG1による破骨細胞分化抑制効果と、炎症性骨吸収に対する抑制効果の作用機序を解明する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件)
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