研究課題
現在主に行われている歯周組織再生療法には1.歯周組織再生誘導法(GTR法)、2.エナメルマトリックスタンパク質(EMD)を応用した手術法、3.骨移植術などがある。これらはすべて歯周組織に内在すると想定される幹細胞(Periodontal tissue stem cell; PTS細胞と定義する)に依存した治療法と考えられる。有効な歯周組織再生が期待されている組織幹細胞としてこれまで歯根膜幹細胞や歯髄幹細胞が報告されている。しかしこれらの細胞は培養皿上で付着増殖した細胞を幹細胞と定義していることから、実際のPTS細胞の本質を明らかにするには不十分であると考えられる。これまで申請者らはマウスおよびヒト間葉系幹細胞特異的マーカーを同定し、間葉系細胞分画を直接生体から分離する技術を確立した。計画している具体的な研究項目は①現在主に行われている歯周組織再生療法において、組織再生に寄与している歯周組織幹細胞をフローサイトメーターにより分離・同定する。② ①で同定した歯周組織幹細胞を遺伝子発現、細胞増殖能、分化能の観点から比較する。③野生型マウスや免疫不全マウスに実験的歯周炎を惹起させ、現行の歯周組織再生療法と①で同定した歯周組織幹細胞を用いた新規再生療法の組織再生及び治癒様式を解析し、ヒトへの応用方法を検討する、の3つである。平成25年度は実験計画①に重点を置きp75-EGFPトランスジェニックマウスの長管骨および顎骨におけるマウスMSCマーカー(PDGFRα+Sca-1+)とマウスNCSCマーカー(CD271=p75)を組み合わせてコロニー形成能や分化能を比較し、PTS細胞のマーカーの同定を試みた。2)歯周外科手術時に各組織を少量採取し、ヒトMSCで同定された細胞表面マーカー(CD271=p75=ヒトNCSCマーカー、CD90)とFCMを用い、培養操作なしで各組織における直接PTS細胞を分離する実験系の確立を予定した。
3: やや遅れている
マウス顎骨における間葉系幹細胞の分離には着手し、増殖能や分化能の検討をしている。当初予定していたp75-EGFPマウスが使用できない状況なので、WTマウスを用いた実験を行なっている。ヒト組織において、歯周外科手術時に各組織を少量採取し、ヒト間葉系幹細胞を申請者らが同定した細胞表面マーカー(CD271=p75=ヒトNCSCマーカー、CD90)を指標にフローサイトメトリーを用いて分離し、培養操作なしで各組織における直接PTS細胞を分離する実験系を確立する予定であったが、現在倫理委員会申請中である。そのためヒト細胞に関しては研究計画の進行が若干遅れているが、申請が通過したらすぐに研究計画に着手する。
ヒト細胞を研究に使用できる状況になればすぐに口腔組織からの間葉系幹細胞分離研究に着手する。また平成25年度は患者由来の組織幹細胞研究の進展が少し遅れている状況であったため、歯周組織再生研究を組織幹細胞と同時進行できるように本学生理学教室との共同研究でiPS細胞を用いた新規歯周組織再生療法の確立に向けて研究を開始した。今後はヒト組織幹細胞、ヒトiPS細胞を用いた歯・歯周組織再生研究を行っていく予定である。現在ヒトiPS細胞から組織幹細胞を誘導する実験系の確立を目指し、培養実験中である。
未使用額の発生は効率的な物品調整を行った結果であり、次年度の研究費と合わせて消耗品購入に充てる予定である。ほぼ予定通りの使用状況であったので、次年度以降もiPS細胞、組織幹細胞の両方から新規歯周組織・歯再生療法の確立に向け、計画的に実験を進めていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) 図書 (1件)
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