研究課題
今回我々が解析してきたS. anginosusはグラム陽性細菌であり、LPSなどの強力な起炎物質を有しない。硫化水素がLPSの存在により誘発された炎症の増悪に関与している可能性がある。そこで、グラム陰性細菌であるP. gingivalisの硫化水素産生株および非産生株を用いてマウスにおける炎症誘発能を解析した。本実験に先立ち、P. gingivalisでL-システインを基質として硫化水素を産生する酵素を単離した。本酵素の存在はこれまで報告されておらず、全く新規の硫化水素産生酵素であることが明らかになった。本酵素を欠失した株を作製、マウス皮下に接種し、親株を接種した群と比較したところ、マウスの生存率は欠損株接種群で有意に高いことが明らかになった。このことは、マウスへの病原性には硫化水素産生に関わる遺伝子が関与していることを示すものである。また、S. anginosusで同様に硫化水素欠損株を作製し、同様に解析したところ、遺伝子欠損の有無にかかわらず、膿瘍を形成したことから、P. gingivalisとS. anginosusの硫化水素産生遺伝子は全く別の病原性を示すことが明らかになった。このことは、硫化水素自身が膿瘍形成に関与しているのではなく、硫化水素遺伝子により誘導された別の遺伝子産物が関与している可能性を示唆している。また、これらの細菌間では硫化水素産生遺伝子により制御される遺伝子が、全く別の遺伝子である可能性を示唆している。さらに、P. gingivalisに対するマクロファージによる貪食実験を行ったところ、P. gingivalis硫化水素産生遺伝子欠損株は親株と比較して貪食されやすいことが明らかになった。このことから、細菌の産生する硫化水素は自然免疫細胞への貪食に抵抗する因子であることが明らかになった。以上の結果から、P. gingivalis硫化水素産生遺伝子はその制御する遺伝子を介して膿瘍形成に関与している可能性が示唆された。
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PLoS one
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Matsumoto Shigaku
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http://www.mdu.ac.jp/faculty/course/saikin.html