研究課題/領域番号 |
25463284
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菅野 恵美 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10431595)
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研究分担者 |
館 正弘 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50312004)
丸山 良子 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10275498)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 創傷治癒 / 炎症 / ダメージ関連分子パターン / 感染 |
研究概要 |
皮膚創傷治癒過程において、感染や壊死組織は、炎症遷延や治癒阻害に働く要因と考えられている。しかし、壊死組織に関する解析は遅れており、近年注目されている「壊死組織・死細胞が放出するダメージ関連分子パターン(DAMPs)」が創傷に与える影響は解明されていない。同時に、壊死組織から放出されるDAMPsに対し、現在行われている創傷ケア技術 (洗浄、ドレッシング材、抗菌薬入り軟膏等) が与える影響も明らかではない。今年度は感染と壊死組織から放出されるDAMPsとの複合的な影響に注目し、解析を行った。創傷で問題となる病原菌の一つに緑膿菌が挙げられる。今回、緑膿菌の病原性に関与する物質として、細胞膜を構成するリポポリサッカライド(LPS)と緑膿菌が菌間のコミュニケーションで用いているクオラムセンシング分子であるホモセリンラクトン(HSL)を用いた。また、DAMPsとして、炎症を誘導することで知られるHMGB1を用いた。 創傷治癒過程で中心的に働く細胞であるマクロファージをLPSとHMGB1で刺激した結果、HMGB1は濃度依存的に炎症性サイトカインTNF-αの産生を促進した。また、マクロファージをLPS、HMGB1に加え、ホモセリンラクトンで刺激した場合もTNF-α産生が促進した。これは、細菌と壊死組織が共存した状況下では、創部の炎症が高まることを示唆する結果である。現在、臨床では、抗菌薬を用いて細菌数を減少させる、またはデブリードマンにより壊死組織を減少させる治療が行われている。今回の結果より、細菌、壊死組織のどちらかを減少させるだけでも炎症反応が低下する可能性があると考える。今後、動物実験モデルに創傷を作成し、より臨床に即した形での検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
皮膚創傷治癒過程における感染や壊死組織と炎症遷延との関連性を解析するため、本年度は細菌の病原性に関与するリポポリサッカライド(LPS、ホモセリンラクトン)と壊死組織(HMGB1)との関連性を検討した。 その結果、細菌の病原性に関与する物質または壊死組織から放出されるHMGB1が単独で存在する場合よりも、両者が同時に存在する状況下で炎症反応が高まるとの結果を得た。これは、研究の目的を達成するための有力な結果である。 現在、創傷治癒が遅延する原因として、過剰な炎症反応および炎症反応の遷延が考えられているが、炎症反応にフォーカスをあてた治療法は存在しない。これは炎症を遷延させる物質が特定されていないことに起因すると考える。今年度の結果より、炎症遷延は複合的な反応である可能性が高まり、次年度以降のより詳細な解析の足掛かりを得たといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今回の結果が実際に慢性創傷を反映しているか否かを検討するため、今後は基礎的な動物実験やin vitroの実験と並行して、臨床検体として慢性創傷の壊死組織を用いた解析が必要であると考える。そのためには、臨床医である研究分担者、連携研究者との密な連携を継続する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度はin vitroの実験を中心に研究を実施した結果、予定金額内で研究を進めることができた。次年度に動物実験を計画しており、今年度繰り越した経費をそちらに充てる予定である。 次年度は、引き続きin vitroの実験を継続するとともに、野生型マウスやダメージ関連分子パターンの認識に関与する受容体を欠損したマウスを用いた実験を計画している。実験動物費用、RNA解析に用いる試薬、成果発表用の旅費等として研究費を使用する。
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