研究課題/領域番号 |
25463287
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
松田 友美 山形大学, 医学部, 准教授 (90444926)
|
研究分担者 |
菅野 恵美 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10431595)
石田 陽子 山形大学, 医学部, 講師 (60322335)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 深部損傷褥瘡 / deep tissue Injury / HMGB1 / 冷罨法 / 温罨法 / 皮膚 |
研究実績の概要 |
【目的】医療費増大や患者のQOLを下げる可能性の高い深部損傷褥瘡(Deep Tissue Injury: DTI)の重症化を防ぐ意義は大きい。本研究プロジェクトはDTI発生初期における重症化予防の看護ケア介入の検討を目的に計画した。本年度は冷罨法と温罨法の圧迫創に対する影響を、炎症初期の細胞リクルート上重要な因子であるHigh Mobility Group Box 1 (HMGB1)の局在から明らかにすることを目的とした。 【方法】6週齢のJCL/ICR雄性マウスを用いネオジム磁石直径10mmで圧迫創を作製した。圧迫6時間後に圧迫解除した。実験群は未処置群(対照群)、冷罨法群、温罨法群を設けた。冷罨法(15℃程度)、温罨法(40℃程度)は45分間実施し、1,3,7日目 (各日n=3) に筋も含め皮膚全層を摘出した。一般染色、抗HMGB1抗体で免疫組織化学染色を施行しHMGB1陽性細胞を観察した。 【結果】肉眼所見は、対照群と冷罨法群で6~7日目では痂皮化が顕著にみられた。組織学的所見では、創の辺縁から炎症が波及しており、褥瘡と同様二次創傷治癒の状態が確認された。対照群、冷罨法群では表皮と真皮内のHMGB1陽性細胞が減少したのに対し、温罨法では創傷部の表皮においてHMGB1陽性細胞の減少はみられず、表皮基底層細胞質内でのHMGB1陽性の染色像が認められた。 【考察】温罨法で痂皮形成が抑制され細胞内のHMGB1陽性局在が変化したことからHMGB1の反応に組織の温度が関係すると考える。HMGB1は細胞膜のTLR4受容体などと結合しNF-κBを活性化することで炎症の悪化に関与すると言われているが非感染下では炎症を抑制する作用も報告される。初期段階において非感染創である本実験モデルでは、後者の反応が生じると推察される。そのため皮膚組織の温度上昇が組織損傷悪化を抑制する可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
臨床におけるDTIの診断と定義に関して組織学的な条件は未だ明らかにされていないため、ヒトにおけるDTIの臨床症状との比較でモデルを作製する手段を選択せざるを得ない。そのため動物実験モデルの作製に関して、DTIの臨床症状と同様の症状を呈するモデルを今後も継続して検討を重ねる必要があるため。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、実験の遅れの理由に挙げた動物実験モデルの改良を進める。適切なモデルが作製されなければ看護ケア介入の影響と効果の検証もその状況に追随して変更することが今後も起こり得るため、できるだけその状況を回避する。そのためにDTIの臨床症状発生の要件となり得る皮膚症状の悪化を示す実験条件を明確にしておく必要がある。実験の方法に「創部のズレ(せん断応力)」、「再潅流」、血管支配を考慮した圧迫部位の変更など条件を変更して臨床症状との比較を行う。本研究は生体のヒトでの実験は不可能であることから、マウスを使用しての実験となるため、ヒトとマウスの皮膚構成の違いを考慮し、臨床症状に近い皮膚病変を作製できるかが課題である。 本研究結果から効果をもたらす可能性のある温罨法に関しては、創傷治癒への効果の評価をさらに重ねる。指標とするマーカーは、CD24とHeat Shock Protein(HSP)70、90を考えている。CD24はHSP70、90の受容体の一つであり、さらに非感染環境下でHMGB1と結合すると炎症を抑制する作用をもたらすとの報告がある。したがって、HMGB1の炎症誘導に関する反応の変化をHSP70,90をCD24と合わせて評価指標として検討を行う。 創傷部における局在や遺伝子発現、蛋白合成の程度から検討を続けていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験の進行上、深部損傷褥瘡モデルの作製の改良に時間を要し、分子生物学的検索にかかる消耗品の購入が遅れていたため。また凍結破砕機器の購入にあたっては、デモ機を比較使用しRNA回収率の良い機器を検討中であるため、次年度に繰り越した。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は分子生物学的検索にかかる消耗品と機器の購入および、論文の公表に際して英文校正にも経費が必要となる。その他、組織学的実験にも消耗品や機器のメンテナンスなどの経費がかかる予定である。
|