本研究の目的は,意識障害患者の意識レベルを改善するための看護ケア技術にはどのようなものがあるかについて国内および海外で実態調査を行うことと,健常者を対象に意識レベルを改善する看護ケア技術を科学的に検討することで看護ケアの科学的根拠を解明することの2つである。具体的には,姿勢(背面開放座位)や種々の感覚刺激(痛覚刺激,聴覚刺激,芳香刺激,温浴刺激など)が意識レベルにどのように影響しているかを生理学的指標(脳波,意識レベル,自律神経活動など)および心理学的指標から検討することである。 平成26年度~平成27年度では,健常者を対象に種々の感覚刺激を用いた生理学的な実験を行った。平成26年度は,健康な成人女性7名を対象に聴覚刺激による影響について,覚醒レベル(BIS値),自律神経活動,心拍数を指標に検討を行った。聴覚刺激にはホワイトノイズ,リラックス音として「α波・1/f マインド・コントロール せせらぎと音楽」というCDを用いたが,ホワイトノイズおよびリラックス音による刺激や60分間の音楽聴取時間では覚醒レベルの指標であるBIS値に有意な影響は示されなかった。 平成27年度は,健康な成人6名(男性1名,女性5名)を対象に,足浴,音楽聴取,足浴と音楽聴取の併用の3種類の刺激による影響について,脳波,自律神経活動,心拍数を指標に検討を行ったが,3種類の刺激条件では脳活動の亢進はみられなかった。これらの生理学的な結果から,今後,刺激条件についての検討が必要である。 平成28年度は,フランス共和国における意識障害患者に対する看護ケア技術についての実態調査を行った。リヨン市内の神経病院(集中治療病院(ICU)とリハビリテーション病院の中間施設)では誘発脳波などを用いた神経生理学的な方法を用いていたが,リヨン郊外のリハビリテーション病院では痛覚刺激や嗅覚刺激などを用いた援助を行っていた。
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