研究実績の概要 |
本研究は、日本の医療史の中に近代看護の源流を探ることを目的としている。平成28年度は、明治初期に出版された原著が異なる翻訳看護書2冊を比較し、その特徴を検討した。扱った史料は以下の通りである。①田代基徳閲、岡田宗訳『看病心得草』1875(明治8)年、②太田雄寧訳纂『看護心得』1877(明治10)年。まず『看病心得草』について、原著はアメリカ人医師 Calvin Cutterの “A treatise on Anatomy, Physiology, and Hygiene”(1852年)の最後の章 ‘Direction for Nurses’ とされている。読者対象は家庭で看病を担う女性、刊行目的としては、名医妙薬でも看病法が良くなければ効果は少ない、養生学(Hygiene)の法則に従い患者への接し方について記述するとしていた。内容は、総論、湯浴、食物、空気、病室温度、静謐、代人心得という項目ごとに記述されていた。無駄な表現がなく、平易かつ簡潔に書かれていた。次に『看護心得』について、原著はアメリカ人医師Robert. E. Griffithの “A Universal Formulary” 第3版(1873年)の序章の一部 ‘Observations on the Management of the Sick Room’ であることがわかっている。読者対象は病院で看護を担う男性看病人で、刊行目的は病室の管理に関して情報提供をすることであった。内容は、総論、換気、温度、清潔、静けさ、排泄、飲食・薬、家具、器物の項目に分けられ、当時まだ西洋文化に疎かった日本人看病人にもわかりやすい表現を工夫しながら記述されていた。これら2冊の書籍は異なる原著の一部を翻訳した看護書であるが、家庭・病院における看護の重要性に注目し、極めて実用的な内容で出版されていたことがわかった。
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