本研究の目的は、一定リズムによるガム咀嚼運動が実験的に誘発した痛覚刺激に対してどのような影響を及ぼすのかを検証した。今年度は昨年度に引き続いて実験を継続するとともに、研究成果の一部を学術集会で口頭発表にて公表した。本研究は準実験研究デザインで実施し、被験者は健康若年成人であった。痛覚刺激は末梢神経刺激装置を用い、穿刺様痛を誘発した。また、一定リズムのガム咀嚼運動はメトロノーム音に合わせて被験者に実施して頂いた。被験者は60分に亘って持続的にガムを咀嚼するとともに、20分間隔で痛覚刺激の痛みを体験してもらい、その際のデータを時系列に収集した。指標には唾液中急性ストレス指標、精神性発汗量、Visual analogue scale(VAS)を用いた主観的評価を採用した。その上で、唾液中ストレス物質量は咀嚼開始20分から有意に低下し、咀嚼終了に伴って上昇した。次に、穿刺様痛の痛覚強度のVAS値に関しては有意な変化は認められなった。次に、心地よさのVAS値に関しては咀嚼開始20分で研究開始前に比して一時的に低下したが、その後、反転して継続的に上昇した。精神性発汗量に関しては痛覚刺激後に増加するものの、測定時前後における分泌量については一定ではなく、個体差による分泌量の違いも認められた。以上から、一定リズムによる持続的なガム咀嚼運動は若年成人男性の急性ストレス物質の有意な低下及び心地よさのVAS値の上昇結果から、痛覚受容を抑止させることが示唆された。
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