女性は、妊娠期に母親となる役割変化を受け入れていくが、この対処の仕方が産後の母親役割適応の方向性に影響すると思われ、妊娠期における母親となる自己の再構成に対する対処(自己調整)を明らかにする目的で本研究を行なった。妊娠末期の初産婦に対し、対児感情及びJ-PSEQ(Japanese Prenatal Self-Evaluation Questionnaire)、SCI(Stress Coping Inventory)の測定と2回の面接調査を行ない、多面的に分析した。妊婦のSCIは責任受容型が低く自己肯定型が高いこれまでの研究結果と同じ傾向を示した。1回目の面接調査の結果は、現実的母親像を描いているⅠ群、描いていないⅡ群に分類された。Ⅰ群には、実母を反面教師とした者と実母を手本に対比させて自己の母親像を描く者が分類された。Ⅱ群には、実母のようになれるか先の心配が膨らみ現実的対処が進まない者や淡白な親子関係から理想像はないと回答する者が分類された。この結果から実母との関係、特に語り合いが影響することが示唆された。次に対児感情及びJ-PSEQと2回目の面接調査での変化との関連について検討した。変化した群は他群と比べ、接近感情が高く回避感情が低く、出産準備に対し肯定的に評価していた。変化途中群は児への拮抗感情は高いが、夫との関係を肯定に評価していた。変化なし群は、対児感情の値は他群に比べて低いが夫との関係を肯定的に評価していた。この結果から夫の心理的支援が、変化のプロセスに影響することが示唆された。さらに、J-PSEQの母親同一化の平均値を基準に3群に分けて比較検討した結果、母親同一化について肯定的に評価している者ほど自己の母親像を現実的に描く傾向が示され、現実的な自己の母親像形成が母親役割適応の指標になることが示唆された。
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