研究概要 |
本研究では,状況の中に埋め込まれた助産師の「触れる」ことの医療的・社会的意味を明らかにし,妊娠期からの母児・家族関係の育成支援に向けたダイナミックなケアモデルを開発することである。平成25年度は,a)文献検討,b)インタビュー調査:平成25年6月~平成26年3月,妊婦10名,c)フィールドワーク:平成25年6月~平成25年8月,助産院・妊婦宅に計5回出向き,フィールドノートを作成,内容をデータ化し,以下のような分析の視点が示唆された。 ・助産師が妊婦に触れ,妊婦の身体と児の存在を密接に関連づけることによって,「未だ見ぬ児」の存在を,まずは妊婦が実感として感じ始めていた。助産師が触れることを通じて児が描き出されていく中で,この関係性を今度は,自己の身体感覚として,児を感じており,「児との一体感」を生み出していた。 ・助産師が触診を通し,「助産師‐児」との関係性を妊婦の前でダイナミックに演じることによって,「あたかも見える存在」としての児を炙り出し,さらに児の動きと連動させた「言葉」を添えていくことで,「未だ見ぬ胎児」の存在だったわが子に,「助産師‐児」との関係をモデルとして示し,児の胎内の位置や様子を説明する翻訳者となっていた。助産師と同じように妊婦が胎児との関係を書き写し,次の機会で今度は,「妊婦‐児」の2者関係でより豊かに再現することで,母児関係を親密で強固なものにしていた。 ・妊婦は日常の出来事を逐一「うちの子」に報告するという,「あたかも自分の傍に児がいる」かのように自然な会話をしており,新たな自己の価値を獲得することで,母親としての自信と誇りを身につけている様子が伺えた。 以上から,助産師の触診を通じた実践において胎児の存在を実感あるものとして描き出すことを通じて,連鎖的に妊婦―胎児,妊婦-家族,家族-胎児の関係性が変化・再構築され,最終的には「未だ見ぬ胎児」を家族として迎え入れる準備がなされていくと考察された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度は,研究調査のスタートが7月であったが,そこからの9ヶ月で,前述のような分析の示唆を得ることができた。研究協力者である4人の地域で活動する助産師と,現在も連携を保ちながらフィールドワークを行っており,今後も引き続きを進めていく。また,すでにH26年度の方向性と調査計画はできており,前半は助産師を対象とした調査と文献検討を中心に行う。中盤には,助産師や妊婦,研究者とのディスカッションの場を設け,助産師と妊婦の相互行為の意味付けを豊かにする。後半からは調査結果およびディスカッションから得た意味を加え,まとめる作業に入る計画である。また同時に,学会発表を行い,論文にまとめていくことも平行して行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
前述の母児インタラクションの構造をふまえて,今年度の調査で明らかにしたいことは,助産師や妊婦,研究者とのディスカッションの場から,助産師と妊婦の相互行為の意味付けを豊かにすることである。さらに研究会を開催し,「状況論的アプローチ」に興味をもつ研究者とともに研究会を行い,本研究の目的に適った研究者,有識者を講師として招き,目的達成のために必要な高度な知識の習得や理論精緻化への基礎を固める。最終目標である,妊娠期からの母児関係の育成支援に向けたケアモデルの開発に着手する。 以下の学会で発表し,学際的な意見に触れ,さらなる議論を深める努力し,論文作成に取り掛かる。 第55回日本母性衛生学会総会・学術集会 2014年9月13日(土) -14日(日) 幕張メッセ 国際会議場 The 20th World Congress on Controversies in Obstetrics, Gynecology & Infertility (COGI), Paris, France, December 4-7, 2014.(予定) 以上から,助産師の「触れる」技術から妊婦と胎児や家族がどのように相互行為を大きく変化させているのかを描き出し,助産師と妊婦とのインタラクションの医療的・社会的意義を明らかにし,最終的には地域における母児・家族関係の育成支援に向けたケアモデルを提示する。妊娠期から産褥早期にかけて継続的な母児・家族関係の育成支援への新たな方法論的可能性を提示できると期待され,母子保健全体においても意義のあるものになると考えている。
|