研究実績の概要 |
本研究では,状況の中に埋め込まれた助産師の「触れる」ことの医療的・社会的意味を明らかにし,妊娠期からの母児・家族関係の育成支援に向けたダイナミックなケアモデルを開発することである。平成27年度は,平成26年度からインタビュー調査とフィールドワークより内容をデータ化し,以下のような分析が示唆された。 助産師が妊婦に触れ,妊婦の身体と児の存在を密接に関連づけることによって,「未だ見ぬ児」の存在をまずは妊婦が実感として感じ始めていた。助産師が触れることを通じて児が描き出されていく中で,この関係性を今度は,自己の身体感覚として,「児との一体感」を生み出していた。「助産師‐児」との関係性を妊婦の前でダイナミックに演じることによって,「あたかも見える存在」としての児を炙り出し,さらに児の動きと連動させた「言葉」を添えていくことで,「未だ見ぬ胎児」の存在だったわが子に,「助産師‐児」との関係をモデルとして示し,児の胎内の位置や様子を説明する翻訳者となっていた。さらに,助産師と同じように妊婦が胎児との関係を書き写し,次の機会で今度は,「妊婦‐児」の2者関係でより豊かに再現することで,母児関係を親密で強固なものにしていた。家族が妊婦のお腹の変化を通じて,胎児へと関心が広がり,妊婦と家族の関係性が変化することによって,胎児の関係が肯定的に作られていった。職場の肯定的な働きかけが,妊婦にとって自ら変化していく身体を受け入れ,待ち遠しい存在として受け入れられた環境を創出していた。 以上から,助産師の触れながら胎児の存在を実感あるものとして描き出すことを通じて,連鎖的にすべての関係性が変化・再構築され,「未だ見ぬ胎児」をやがて家族として迎え入れる準備がされていった。この分析結果をICMアジア太平洋地球会議(7/20-7/22)で発表した。
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