本研究は,状況の中に埋め込まれた助産師の「触れる」ことの医療的・社会的意味を明らかにし,妊娠期からの母児・家族関係の育成支援に向けたダイナミックなケアモデルを開発することである.助産師が〈触れる〉技術である胎児の位置診断に用いられる腹部触診法での関わりを焦点化し,助産院における妊婦健診の場でのアクションリサーチや助産師・妊婦へのインタビューを通じて,「助産師-妊婦-胎児」間の豊かなインタラクションの構造的分析を行った.平成28年度は,地域助産師へのインタビュー調査結果をデータ化し,分析検討を行い,以下のような結果が示唆された. 診察場面では,助産師は〈触れる〉ことを通じて,妊婦の思いを引き出し,妊婦と胎児との関係性が,妊婦の身体を通じた胎児への関心(求心的関心)か,妊婦が胎児を代理する形での対外的関係への関心(遠心的関心)かを推察し,妊婦-胎児関係が安定するように関係の調整を行なっていた。また,妊婦の緊張を緩和するような快をも感じる助産師の触診技術も環境調整の一つとなっていた.この関係を意図的に作っていくことで,妊婦-助産師間にもより良い関係ができ,出産に向けての信頼関係を構築していた。 これまで,妊婦の胎児を肯定的に受け入れるという関係性は,妊婦の能力やアイデンティティと捉えられてきたが,この求心的関心・遠心的関心の関係調整が,妊婦が胎児を受容する方向性への支援となっており,助産師の〈触れる〉ことが重要な因子となっていると考えられた. 今回,分析に用いた動的な変化を示したモデルでは,「妊婦という〈身体〉」が,認識と「からだ」の結びつきを発見するための実践の場となっており,助産師が〈触れる〉という行動を通じて,助産師-妊婦-胎児の関係性の世界が変化を繰り返していく動的モデルとして考察できた.この分析結果を日本質的心理学会および日本看護科学学会で発表を行った.
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