研究課題
手芸を楽しむことが、日常生活の質向上や抑うつ傾向にどのような影響を与えるかを調べることを目的とした.「K市ふれあい広場」と「H市老人会」の参加者を対象に、1年間手芸を行うプログラムを実施した。参加の65人を対象に自記式質問紙による調査をベースライン時(T1)と1年後(T2)の2回実施した.質問項目には、対象者の基本属性、第1趣味、キルティングの関連情報・目的、キルティングで得られる充実感などの効果、抑うつ尺度であるGDSが含まれた。生活の満足度、キルトを楽しむ目的などについては単純集計を用いて把握し、t検定を用いてキルトを楽しむことと抑うつ傾向の関連を調べた.さらに、GDS得点を従属変数とし、t検定で有意差があった変数すべてを独立変数とした重回帰分析を行った。すべての統計解析は、統計ソフトSPSS Version 20を用いた。調査はH大学の倫理審査委員会の承認を得て実施した。対象者の平均年齢は70.4歳で、約70%が65歳以上の高齢者であった。約46%が自分は健康だと答えており、約半分が少なくとも疾患を1つ持っていると回答していた。趣味はスポーツが32.3%と最も多く、次に散歩が21.5%、園芸や読書や手芸はそれぞれ9から12%であった。ベースライン時うつ傾向は、主観的健康度と有意に関連していたが、年齢や趣味、疾患の有無とは有意な関連が認めなかった。介入を始めてから1年後におけるGDS平均得点(3.35±1.9)は、ベースライン時(5.12±2.9)より有意に低くなった。うつ傾向のある割合は、ベースライン時の47.7%から1年後は23.1%と、24.6%が減少していた。ベースライン時の主観的健康度別においても、うつ傾向ありの割合は有意に減少した。クリエイティブな手芸を用いた介入は、中高年女性のうつ傾向の予防や改善に有効である可能性が示唆された。