料理は多数の調理器具や食材などを使用し、「切る」「混ぜる」「炒める」等多岐にわたる動作から構成される複雑なタスクである。本研究では、認知症の進行に伴ってその行為が次第に困難になり、特に買い物をすること、献立をたてることが難しくなることが分かった。さらに調理を担当してきた者が認知症により料理タスクができなくなった場合には、メニューが同じものばかりで栄養状態が偏る等、家族にも影響を与えている現状がうかがえた。我々は大阪工業大学、佐野睦夫教授のグループが開発した調理ナビゲーションシステムを用いて、認知症患者と我々医療者が双方向的に結びつき、遠隔で料理リハビリテーションの見守り、支援を行うことを計画した。利点として料理活動は生活の中で繰り返されていたなじみのある作業であり、認知症患者にとって取組みやすいということ、食事は生活の中で中心的な行動であり、料理支援により家族を含めた対象のQOL向上に対する期待感が大きいことが考えられた。 このシステムを用いた高次脳機能障害者対象の研究では1)被験者の独力での調理完遂、2)自己効力感の向上、3)被験者の自立、といった成果を得た。しかしながら本研究において、進行性の疾患である認知症患者がこのシステムを使いこなすことは困難であることが示唆された。まず、①システムを動かす操作の記憶が難しい事、②ガスコンロや包丁の扱い方を忘れることから危険性を伴うこと、③画面を見て同じ行為を真似ることが困難であること等があげられた。 家族からは一人でシステムに向かって料理を行う事よりも、グループで行う方が刺激になるのではないか、また、自宅で行うと集中力の低下が顕著に表れるため、外で他の認知症患者と協力し、やり遂げた方が達成感を得られるのではないかとの意見があった。
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