研究課題/領域番号 |
25463588
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
森 真喜子 北里大学, 看護学部, 准教授 (80386789)
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研究分担者 |
尾崎 章子 東邦大学, 看護学部, 教授 (30305429)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 未治療期 / 精神障害者 / レジリエンス / 地域精神保健医療福祉制度 / 心的外傷 |
研究概要 |
研究初年度にあたる今年度は、精神障害者の受診行動や地域における生活状況を考察する上で重要と考えられる江戸時代から現代に至るまでの精神保健医療福祉行政と関連法規、医療史等の地域精神保健福祉制度に関する資料の収集とフィールドワークを実施した。 さらに、本研究の主要概念であり、ジョージ・A・ボナーノが「極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を維持することができる能力」と定義した「レジリエンス(resilience)」に関する文献検討を行った。 また、「脆弱性モデル」・「ストレスモデル」から「レジリアンスモデル」へのパラダイムシフトの歴史的背景や意義とともに、心的外傷体験の克服により人格的な成長を遂げる「外傷後成長(posttraumatic grouth)」の概念についても文献による検討を行った。 その他、首都圏で活動する訪問看護師を対象に半構成的な聞き取り調査を実施し、地域において未治療期の精神障害者の存在が顕在化するきっかけや、彼らを精神科への受診行動に結び付けるまでのアプローチの方法、家族との協力体制の在り方を模索する現状とその背景に関する情報を収集した。そして、それらの情報を、来年度から実施予定の精神障害者を対象とする聞き取り調査のインタビューガイドの内容に反映させた。 なお、質的データ分析の精度を高めるため、グラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析手法を研究者間で共有する会を定期的に開催した。 今後は、精神障害を有し、精神科医療機関に初診後1年未満の研究参加者に、聞き取り調査によるデータ収集を実施する予定である。そこで、今年度より訪問看護ステーションや病院の外来・デイケア部門等の調査協力施設の責任者との調整を開始し、本研究の主旨や目的、および倫理的配慮等について説明し、了解を得るとともに、今後の調査の進め方に関する具体的な打ち合わせと研究協力者候補の選定を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の研究参加者(調査対象者)は精神障害者であることから、聞き取り調査の前に、病院の訪問看護ステーションや外来・デイケア部門等の調査協力機関の担当者と特に配慮すべき点について、ケース別の綿密な打ち合わせを実施すると同時に、調査実施前後の研究参加者の病状の変化に対応するための医療支援体制の整備について協力を求めた。 また、研究者が研究参加者と初対面という条件において聞き取り調査を実施するのではなく、事前に複数回の面会の機会を設けることにより、研究者と研究参加者との信頼関係の構築に努め、研究参加者のより深く率直な語りを引き出すことを目指すための準備期間とした。 以上の理由により、本調査の開始がやや遅れている現状にあるが、来年度以降は順次聞き取り調査を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.情報収集 協力施設より紹介を受けた精神障害者を対象に、研究者が文書と口頭で本研究の主旨を説明し、同意を得られた人を研究参加者とする。 本人の同意を得て、カルテ等からデモグラフィック・データに関する情報収集を実施する。具体的には、現在の年齢、性別、精神障害発症の時期、精神障害発病当時の居住地等、地域生活の状況、保健医療福祉の関連機関との交流の有無、保健医療福祉の関連機関の担当者との人間関係等、現在の社会貢献、サークルや趣味、社会活動等に関する情報収集を行う。 1回40~60分程度の半構成的な面接を実施する。研究参加者から当時の手紙や写真、日記などが提示された場合は、それらも情報とする。聞き取る内容は「精神障害発病前後の記憶に残るエピソード」についてであり、具体的には、精神科的エピソードにより医療への最初の受診行動を行うまでの経過、受診に向けて地域精神保健福祉サービス機関や医療機関から受けた援助、最初の受診行動後の経過ならびにその時に医療機関や地域精神保健サービス機関から受けた援助、受診後に地域生活を送る上で役に立った医療保健福祉専門職の援助、あるいは希望する援助やサービス等、現在の日常生活、社会活動等に関する情報収集を行う。 2.データ分析 作成した逐語録から研究参加者のライフストーリーを再構成し、精神障害発病前後の生活上のエピソードの意味とその体験が治療過程やその後の人生に与えた影響について、ストラウス・コービン版のグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析する。ボナノが定義したレジリエンスの概念や、ジュディス・L・ハーマンの提唱するPTSDの主要概念を照らし合わせながら、エピソードの持つ意味を考える。研究分担者・研究協力者・連携研究者と分析の経過を共有し、必要に応じた修正を行うと同時に、研究分担者によるスーパービジョンを受け、データ分析の信頼性・妥当性を確保する。
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次年度の研究費の使用計画 |
データ収集のための聞き取り調査の実施が予定より遅れていることにより、調査の経費として予算化している旅費・謝礼・印刷費等の支出がまだ発生していないことが理由として挙げられる。 来年度以降は、既に本研究課題に関連する研究成果の発表が決定している国際学会学術集会や国内学会学術集会参加に伴う旅費や学会参加費の支出を予定している。 また、データ収集のための聞き取り調査が開始されることに伴う必要経費として、旅費・謝礼・印刷費等の支出を予定している。
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