精神障害者の受診開始後の支援や未治療期の地域生活の状況や受診の経緯については、専門機関や患者家族を対象とする調査で明らかにされてきた。本研究では、地域で生活する精神障害者を対象に、発病前後の生活上のエピソードと受診に至る経緯に関する聞き取り調査を実施し、体験のもつ意味とその体験が治療過程や人生に与えた影響について考察することを通じ、退院支援や地域生活上の看護支援への示唆を得ることを目的とした。 精神科医療機関に通院中の研究参加者を選定し、研究の目的・方法、自由意志に基づく参加、プライバシーの保護に関する説明後、文書による同意を得た9名を対象に、レジリアンスの概念を照合しながら、ストラウス・コービン版のグラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した。その結果、[初めての病的体験とそれを取り巻く環境] 、[受診の必要性の自覚]、 [初めての受領行動] 、[治療内容の変遷] 、[価値観の変容]、[進路の切り替え]、 [知識や技術の習得]、[資格や就労の機会を得るための行動]の8カテゴリーが抽出された。初めての病的体験とそれを取り巻く環境が受診の必要性の自覚を促進し、受療行動に結びついたものの、医療機関で抱いた不信感や治療効果の実感の乏しさから、治療内容の変遷を経験していた。その後の信頼できる専門家や精神障害を有する仲間との出会いやライフイベントを経て、自己理解とともに自己受容・社会受容を包括する障害受容を基盤とした価値観の変容や進路の切り替えを実現する一方、現状には不全感や不安も抱き、安定や成長を求めて知識や技術の習得、資格や就労の機会を得るための行動を起こす積極性や未来に対する希望を抱ける精神的な健康度を取り戻していた。他方、他者から関心を向けられる特質とそれを維持する能力や他者への信頼感の持続に課題のあるケースでは価値観の変容や進路の切り替えには至りにくいプロセスが認められた。
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