研究課題/領域番号 |
25463628
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中谷 久恵 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 教授 (90280130)
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研究分担者 |
金藤 亜希子 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 助教 (80432722)
松本 裕子 香川県立保健医療大学, 保健医療学部, 助教 (20633639) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | eラーニング / ICT教育 / 保健師 / 家族支援 / 現任教育 |
研究実績の概要 |
平成26年度の調査より、家族支援の学習ニーズは「家族アセスメント」が5割を越え、学習したい支援技術の上位は「家族に必要な援助の見極め」「家族が本人のために関わる力を引き出す」「家族と住民をつなぐ」がいずれも3割を超えていた。この結果より、保健師が学習できる教材はすべてのライフサイクルに対応するよう母子保健、成人・老人保健、精神保健、産業保健の要素を盛り込んだ健康課題の事例が必要と判断した。そこで、三歳児健診をきっかけに言語の遅れを把握した保健師が養育期の家族を訪問すると、父親と祖父にはアルコール問題があった、という設定の動画事例を制作した。複合する健康課題を抱えた三世代同居家族への家族面接を通して、アセスメントと看護計画に回答する2コンテンツと、支援技術の上位3項目について事例分析をする3コンテンツを設定し、さらに事例解説を読んでフィードバックをする1コンテンツを加えて合計6コンテンツを学習課題とした。 ICT教育の試行は広島県内の自治体に依頼し、研究に同意した保健師11人が任意でeラーニングの受講登録を行なった。学習期間は35日間で、この間にコンテンツを1回でも受講したのは7人であった。7人は経験1年から19年目までで平均は4.6年、年齢は29.4歳であった。受講は2コンテンツが4人、5コンテンツが2人、6コンテンツが1人であった。アクセス回数は39回で、一人平均5.6回であった。受講の時間帯は23時台の15.4%が最も多く、昼間の7時-18時48.7%に対し夜間・深夜の19時-6時は51.3%であった。 eラーニングには経験が若い保健師がより関心をもち、昼間よりも夜間のアクセスが多かった。11人中4名が登録と閲覧のみでコンテンツ学習に至らず脱落しており、eラーニングの負担が示唆された。平成28年度は受講者を拡大し、有効なコンテンツと効果的な学習層を明確にする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の調査から明らかになった結果は、平成27年度に1つの国際学会と2つの国内学会で公表を行なった。国際家族看護学会(2015年9月Odense)では、「行政保健師の家族看護における教育ニーズ」があると回答した保健師は92.7%(n=344)で、教育ニーズが高いことや家族看護理論を理解する必要性を認識していること、日本公衆衛生学会(2015年11月長崎市)では「自治体に勤務する保健師のICT環境とeラーニングへの学習ニーズ」において、ICT環境の自治体のインフラがeラーニングへの学習ニーズには影響していないこと、日本看護科学学会(2015年12月広島市)では、保健師が家族支援で高めたい技術の学習ニーズは「見極められる」といったアセスメントや「力を引き出す」「記述できる」といった実践の項目であることが示された。これらの背景を踏まえ、eラーニングに使用する教材分析を行い、動画事例を制作し、平成25年度に仮作成したシステムに搭載してホームページを完成させ、ネットワーク上で計画通りICT教育の実践までが行なえた。 しかし、eラーニングの希望調査では75%以上の保健師が希望していたため、自治体統括保健師を通じて協力を依頼したが、実際に任意で協力が得られたのはわずか11人であった。保健師の所属では県4人、保健所設置市4人、市町村3人とバランスはよかったが、平成28年度にはさらに受講者数を増やし、行政の保健師のみではなく産業や他分野で働く保健師にも教育方法の有効性を確認する調査が必要と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
保健師の現任教育に活用するeラーニングの受講者が全県下の保健師でわかず11人しかリクルートできなかった背景には、自治体が公的行政機関の特長上、仲介した統括保健師がインターネットの利用を危惧したことや、部署での了解を得るには依頼日から実施までの期間が短すぎたこと、職務の多忙さから自己研鑽であるeラーニングへの時間的ゆとりのなさなどの課題が示唆された。そのため、制作した動画教材の有効性やICT教育システムの評価に値する受講者数が得られなかったことが課題として残された。 平成28年度には、まず広島県外の自治体にも働きかけてeラーニングの地域性を広げていく。さらに、自治体保健師に限定せず産業保健師や病院保健師にも教材やeラーニングシステムを体験したり閲覧したりしていただき、制作した教材の評価とシステムの両面で評価を行い、家族支援をeラーニングで学ぶ上での効果的な活用法や対象者の基準を明確にしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度までの支出予定としていた見積もりには、平成26年度の調査用に購入予定であった統計解析ソフトの物品費や、専門的助言者や英文校閲の人件費・謝金を計上していたが、これらをローコストに保っているため予算に余剰金がでている。これは平成27年度のeラーニングの実施により教育効果への期待が高まれば、平成28年度に動画事例の制作を1件追加することでコンテンツを増やすことを索中していたためである。実際に、受講者からは「事例の続きがみたい」と言った自由回答があり、eラーニングの継続性に意義がある意見が得られた。そのため、これまでの余剰金で制作が可能であれば、平成28年度の施行では、システムを改善する計画にコンテンツの追加も加え検討を行なう。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度へ繰り越した金額内で動画教材の制作を1件追加する。予算的なマッチングが困難であれば、英文校正の論文制作費として宛てる。
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