本年度は最終年であるため、これまでに得られた知見をより確かなものとできるかどうかを事例を追加検討し、『近隣のソーシャル・キャピタルと健康との関連』モデルの精緻化を試みた。『健康に正にあるいは負に影響を及ぼす近隣の実体的・潜在的資源は何か』については、ソーシャル・サポート、情報チャンネル、地域を維持しようとする統制力、近隣組織への参加がその構成要素と考えられた。それらが単独に影響を及ぼすというより、相加的あるいは相乗的に関わった時に、初めて実質的な影響があることが示唆された。ソーシャル・キャピタルが健康に有益な影響を発揮するのは、ソーシャルサポートや情報チャンネルとしての近隣資源としての働きという側面はあるが、その情報チャンネルが社会的信用に裏打ちされて初めて効力を発揮すること、地域を維持しようとする統制力との関係で、効力を発揮できない場合もあることがわかった。近隣組織への参加度が高いことが不利益と関連していることについても、近隣組織の性格によっても不利益に関連するとばかりは言えない。結束型かつ橋渡し型キャピタルの組織としての婦人会の場合、結束型キャピタル組織の婦人会に比べ、女性だけでなく住民全体も、さらには保健師等の専門職にも相互に影響し合うネットワークが形成されることが、不利益に関連しない結果をもたらしたと考える。社会的凝集性は直接的に、また近隣資源を通じて間接的に健康に影響を及ぼすと考えてきたが、人口の高齢化ばかりでなく大きな人口減少下の地域では、社会的凝集性そのものが揺らいできており、対象とした島嶼地域では、社会的凝集性の直接的な影響は少ないとの感触を得た。一方で、近隣組織として、婦人会以外にも結束型かつ橋渡し型キャピタルの新たな出現はあり、それらと保健師等の専門職とで、ソーシャルキャピタル醸成を図ることが島嶼での健康づくり戦略として活用できると考えられた。
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