本研究の目的は認知症ケアの向上を図るため、認知症者の本来感を高めるコミュニケーション・スキルを開発することである。認知症者が住み慣れた地域で生活を継続するためには、関わる人々のコミュニケーション・スキルが重要と考える。本来感とは自分らしくある感覚であり、対人関係の親密さや生活・活動の場の充実、肯定的な心身状態に影響を受けている可能性が示唆されている。認知症者自身の本来感を高めるコミュニケーション・スキルが明らかになれば、本人が望む場で生活を継続することが期待できる。研究方法は質的記述的研究、研究参加者は若年性認知症者と高齢認知症者、データ分析は会話分析を行った。平成27年度は医療場面におけるデータ収集を行った。現在、分析途中であるが、医師による問診に対し自ら開始する問題提示はみられなかった。また、付き添い家族により開始された問題提示に対し、高齢認知症者に「沈黙」「非同意」がみられた。本研究は平成25年度から開始しており、現在までに明らかになったことは①活動場面における若年性認知症者は、指示を得て「話し手ー受け手」という役割交代を行いながら動作を行っている、②「要請ー受け入れ/断り不明(沈黙)」「評価ー同意/不同意不明(沈黙)」の隣接ペアが多い場面では認知症者の本来感が高くないと考えられる。また、活動場面での若年性認知症者は自らの深刻な状況である認知機能障害の進行を笑いとするパッシング(取り繕い)を行っており、会話をしている他の若年性認知症者と支援者は共に笑うというパッシングするケアを実践していた。これは本来感を高める相互行為と考えられる。活動場面では成果を高めるコミュニケーション・スキルが本来感を高めると考えられる。
|