本年度はドイツにおける成年後見法と医療同意の問題について検討した。国連条約では、だれもが医療や保健などの健康サービスにアクセスできることが保障されているが、これを実現すべく、ドイツでは、医療行為と健康配慮について、実体法上および手続法上、きわめて詳細な規定が用意されている。とりわけ、2009年の第3次世話法改正において、民法典の中に、「患者の指示書」の制度が創設されたが、その要件は厳格に定められており、また、その患者の意思が具体的にどのように実現されるかの手続についても詳細な規定が用意されている。また、これらの法制度の運用にあたっては、医師(病院)、裁判官(裁判所)、自治体(世話官庁)が連携して積極的に活動している。たとえば、病院からの連絡を受けた裁判所は、医師が医療を行うことができるように迅速に世話開始の手続きを進める。そして、裁判官は集中治療室(ICU)にいる患者であっても本人の状況についての心証を得るために訪問するというのである。 他方で、わが国ではこの問題があまりにもあいまいに扱われすぎてはいるように思われる。わが国では、現行法上、医療行為と健康配慮については社会通念のほか、緊急性がある場合には緊急避難・緊急事務管理等の一般法理にゆだねざるを得ない。わが国においても、いかにして平穏な死を迎えるかについて関心をもつ人は少なくないように思われ、法制化に向けた議論は行われるべきであろうが、その制度設計については、ドイツ法も参考に、より慎重な検討がなされるべきであろう。
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