平成27年度(最終年度)は下記の通り研究を行った。 平成27年6月、第20回日韓家族法学会(於:九州大学)において「日本における医療行為と同意の現状と課題」のテーマで研究報告を行った。本報告では、日本におけるインフォームドコンセントの現状、とりわけ患者本人が同意能力を有しない場合の代行決定の問題について、延命治療の拒否(尊厳死)の問題も含めて検討した。日本では事実上家族によって決定されているのが現状であり、その正当化根拠については法的にあいまいな点が少なくない。 また、平成27年12月、第31回法と精神医療学会(於:広島大学)では「強制入院と身体拘束への法的規制」のテーマで研究報告を行った。本報告では、とりわけドイツ民法における成年後見人による同意制度との比較を含めて、この問題をめぐるわが国の現状と課題を検討した。2014年1月、日本は障害者権利条約に批准した。同条約では、身体の自由及び安全が保障され(14条)、暴力や虐待などは禁止されているが(16条)、違法な強制入院や隔離、身体拘束は後を絶たない状況にあり、さらなる法的対応が求められている。 平成28年3月、本研究の一応のまとめとして、広島法科大学院論集に「医療行為と家族の同意」と題する論考を公表した。欧米諸国では医療に関する決定や強制入院などについては裁判所の関与が前提とされている国も少なくない。これらの行為は本人の権利を侵害する可能性があり、十分な権利保護が保障されなければならないからである。その意味において、わが国の法状況はいまだ不十分と言わざるを得ず、患者の権利保護のための法的対応をさらに具体化させる必要がある。
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