産業基盤が脆弱化した日本の地方では,新産業として観光業が着目されており,訪日外国人旅行者が選好する観光資源の発掘,整備が喫緊の課題となっている。本研究では日本に関する知識・経験の乏しい中国在住の中国人学生,並びに,一般市民を対象に,選定した広島県の観光景観画像40種を地域の観光資源として呈示し,評価を求める心理実験を実施する。これにより,中国人の観光景観に対する評価構造モデルを構築し,今後の中国人の訪日意欲喚起に資する汎用性のある基礎的資料を得る。さらに,日本に対する知識・経験の有無が観光景観に対する評価や訪日意欲に影響すると予想されることから,観光景観に関する情報提供の前後で同一の心理実験を行った結果の比較により,いかなる情報の提示がいかなる観光景観の評価向上に資するかを把握する。 以上の目的をふまえ,中国人学生94名,並びに,中国人一般市民58名をいずれも訪日旅行潜在層と定義し,一群の被験者による実験結果として分析を進め,共分散構造分析における多母集団同時分析を適用した。その結果,学生は開放性,一般市民は固有性を重視する傾向がうかがえた。平成27年度は,以上の成果を日本建築学会環境系論文集へ投稿,掲載が決定した。 また,観光景観画像の呈示に合わせて,その場所の特徴を文字情報として付与し評価を求める,中国人学生85名を被験者として平成26年度に実施した実験結果については,外国人研究員として昨秋,来日した共同研究者,金華教授の助力を得ながら進め,文字情報の内容と学生の知識や経験,興味・関心との関連が評価の一要因であることを確認した。さらに,文字情報の付与による効果をより仔細に検討するため,日本人学生を被験者とした同様の実験を実施し,画像と文字情報の内容的な整合性や相違性による,相乗効果や相殺効果について示し,中国人学生による評価結果を解釈する上で有用な知見を得た。
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