2015年度は最終年のため、次の2つの作業に集中した。1)フィールド調査のデータの整理と分析;2)補足のデータの収集である。フィールドデータの整理では、すでに終了したフィリピンセブ市のティナゴ地区とパリアン地区における家族の聞き取り調査の情報の内から、家族に伝わる遺産と、コミュニティにある遺産と関係性について分析した。その結果、調査したすべての家族が、自身の家族に伝わる遺産を上位に考え、コミュニティの遺産、すなわち共有の遺産については、家族の遺産との関連の中で述べてくることがわかった。また家族間の遺産の正当性、遺産伝承の古さを競う傾向が見られた。 ラオスにおいては、フィリピンとは全く異なり、コミュニティの遺産を上位に考え、共有する遺産の概念がかなり広く共有されている様子であった。ラオスでも自身の家族に伝わる遺産は認識されているが、それらはコミュニティの遺産を述べる中で、下位に位置づけられて述べられる傾向がみられた。こうした点で、「皆の遺産」「公共の遺産」が広く認識されていた。 こうした点から、遺産の概念、特にリビングヘリテージに関して、かなり広範な多様性が認めれた。研究を通して次の課題も見つかっている。上記の2地域におけるリビングヘリテージの多様性が、宗教的なものか、それともそれを含む文化的に由来するものかという問題である。これを検証するため、フィリピンにおいてはイスラム教徒の人々の間に遺産の概念と遺産との関係、ラオスにおいては仏教徒以外に村人の遺産の概念と、遺産との関係についてフィールド調査する必要があると考えている。すなわちリビングヘリテージの多様性の中の多様性について、さらなる調査が必要であると考えている。
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