研究課題/領域番号 |
25501023
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研究機関 | サイバー大学 |
研究代表者 |
松本 慎二 サイバー大学, 国際文化学部, 教授 (50454195)
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研究分担者 |
内海 麻利 駒澤大学, 法学部, 教授 (60365533)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 世界遺産 / 都市マネジメント / 観光学 / 国際情報交換(仏) |
研究実績の概要 |
平成26年度の研究の重点の一つはフランスの以下の歴史遺産都市のフィールド調査であった。1.現在も定期的に音楽祭会場となっている世界遺産、ローマ時代の古代劇場を有するプロヴァンス地方の小都市オランジュ、2.イール川とその運河に囲まれた現在の世界遺産に加え、19世紀末以来ドイツによって開発された周辺区域も含めた世界遺産認定を求めている独仏国境に近い旧都ストラスブール、3.パリに対抗する大都市であり、戦禍にあっていないため多くの文化遺産が今も残り、市のほぼ全域が世界遺産に指定されている大西洋岸に近いボルドー、4.パリに次ぐフランス第二の人口稠密地域の中心地に世界遺産登録された歴史地区を持つ、フランス中央部に位置するリヨン。 もう一つは、上述各都市の文化遺産保存関連部局に対して行った面接調査である。この面談では予め聞取り調査要旨を送付、日程を調整の上各地の市役所に赴き担当者からの情報収集を行った。これらから以下の点が明らかとなった。 都市計画と文化遺産保存との緊張関係は各都市に共通している。また、世界遺産部分の面的な保全と住民生活との関係、観光政策とそれに伴う交通政策の展開も類似している点は少なくない。しかし実情は様々。例えば他の都市と比べ小規模なオランジュはもっぱら継承した文化遺産を守り,その活用を心がけているのに対し、大都市ボルドーではガロンヌ川に架かる斬新な現代的デザインの橋梁建設そのものも、遺産保存のための積極的施策ととらえられている。またストラスブールは仏領となったり独領となったりした特異な歴史に加え、現在は欧州連合の主要機関本部が置かれ、単にフランスの歴史都市というだけではないコスモポリタン的な性格を持っている。リヨンの場合は古代ローマ時代以前から集落が形成されており、シルクロードの西の端で、アジア文化の影響も垣間見られ、住民の居住区域に世界遺産が点在している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の基礎調査の結果を踏まえ日本の都市政策と文化遺産保存の問題を考える上で有益と思われる比較対象都市を特定でき(オランジュ、ストラスブール、ボルドー、リヨン)、そのそれぞれについてin-depth studyと詳細な実地調査を行うことができた。そしてその調査を通じて、文化遺産の面的な保全と住民生活との関係や観光政策、交通政策における共通の課題があると同時に、それぞれの歴史遺産都市自体の多様な歴史に基づく固有性を見逃してはならないことも明らかにされた。 平成27年度におけるフランスでの補完調査,および日本における調査を通じて問題点がさらに明確化されるであろう。我が国の歴史都市と比較検討することによって文化遺産の保全、住民のより良い生活、交通機関の整備、観光政策等を踏まえた総合的な21世紀の都市計画のありかたについての考察の発展が期待される。 初年度から企図されているユネスコ世界遺産センタ―との協力は前進しているが平成26年度に飛躍的な進捗があったわけではなかった。ユネスコ自体の、米国の分担金不払いなどによる財政状態の逼迫などが予定事業の遅延をもたらしていると考えられる。最終年度の実績を、都市化と文化遺産の保存に関するシンポジウムあるいはワークショップの開催につなげたい。 平成27年現在ユネスコの世界遺産リストに登録されている文化遺産は複合遺産を除いても779件に達する。その大多数は人の住む地域に位置しており、人間のアクセスが困難な人跡未踏の地に孤立して存在しているわけではない。各要素の真正性,不変性を保つことが遺産保護の絶対的必要条件であるのに対し、住民生活はその時々の政治情勢、都市基盤整備の度合い等により常に変化している。従ってその変化の中での保たれるべき文化遺産の真正性・不変性とは何かを常に考慮する必要があると思料される。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究は以下の活動を中心に行う。 1.フランスにおける補足調査(フランスにおける文化遺産の保全と都市の発展との問題は平成26年度実施のフランス四歴史遺産都市の調査で問題点はほぼ網羅されていると考えられる。平成27年度の補完調査においては文化遺産保全と都市計画の整合性に関わる国の政策、国と地方自治体、コミューンの協調についての調査を試みたい)。 2.日本の歴史遺産都市における文化遺産保全と都市化問題(すでに基礎調査ずみの京都市、奈良市に加えて沖縄県を対象に現状の把握、その問題点の指摘等を試みたい。とりわけ「包括的保存管理計画」を中心に日本における文化遺産の保全と管理の実態とその変容を明らかにする。その実態を踏まえ、フランスとの比較において、日本の歴史遺産都市における文化遺産保存および管理に関して、その変化と動向、そして公共団体、民間組織などの主体としてのあり方や国際協力の可能性について検討する)。 以上の成果を公開の場を通じて社会活動に発展させるため、来年度以降、当該テーマについて新たに科学研究費を申請するなどの適切な処置をとり、本研究の発展的継続形態として日仏間の各段階での協力を制度的に推進し、ユネスコの協力を得て「都市空間との関係における文化遺産の保全と管理」、「文化遺産の真正性・不変性の保全」などの観点から、文化遺産と「変動する人間社会」との共生をめざす、国際的なシンポジウム、あるいはワークショップの開催を企画、準備する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に支払うべき謝金総額が当初予想以上となったため、一部の出張調査を平成27年度に実施することとした。この措置のため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度である平成27年度に、国内補完調査と日仏比較研究活動をいっそう充実させるために、フランス4都市への再訪、日本2都市への再訪および沖縄県出張を計画しているため、その経費に充当する計画である。
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