本研究ではアカパンカビにおいてDNAメチル化の制御への関連が示唆されているHCHCと呼ばれるHDAC複合体に注目し、そのコンポーネントであるcdp-2およびhda-1の欠損株と野生株の間でDNAのメチル化、ヒストン修飾(H3K4me3、H3K9me3、H3K9ac、H3K4ac、H3K14ac、H3K18ac、H3K27ac、H3K36ac、H3K56ac、H3K79ac、H4K5ac、H4K12ac、H4K16ac)、RNA発現量をそれぞれ全ゲノムバイサルファイトシークエンシング(WGBS)、クロマチン免疫沈降シークエンシング(ChIP-Seq)、RNAシークエンシング(RNA-Seq)によりゲノム規模で測定することによりこの生物におけるDNAのメチル化の意義を明らかにすることを試みた。本年度は文献調査やバイオインフォマティクスによる解析を中心に研究を進め、論文化の準備を進めてきた。その結果、WGBSでは同一のHDAC複合体に含まれるコンポーネントでありながら、cdp-2、hda-1の欠損はDNAメチル化に対して異なる作用を示すことがゲノム規模で確認された。また、この効果はアカパンカビにおける主なメチル化の対象領域であるRIP領域の大きさに依存していることが示唆された。一方、ChIP-SeqデータとDNAメチル化の比較解析ではcdp-2、hda-1欠損株におけるDNAメチル化状態の変化がH3K9me3の分布の変化と強く相関していること、またH3K9以外のいくつかのヒストンのリシンのアセチル化が関連していることが明らかになった。さらにはアカパンカビではH3K9のメチル化に依存したDNAメチル化導入のモデルが提唱されているが、この既存モデルでは説明できないゲノム領域が複数個同定された。
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