研究課題
基盤研究(C)
エピジェネティクスは、後天的遺伝情報とも呼ばれ、分化・老化・癌化など様々な生命現象に深く関わる。ヒストン修飾はその一端を担い、遺伝子の発現調節に大きな影響を及ぼすことが分かっている。本研究では、細胞密度依存的にヒストン修飾のレベルが変化することに着目し、細胞密度依存的なエピジェネティクス制御と遺伝子発現調節の解明を目指す。予備的実験から、細胞密度を通常の培養条件よりも10~30分の1にすると、ヒストンH3K9ジメチルおよびトリメチル修飾が上昇することが分かっていた。そこで平成25年度では、様々なヒストン修飾のレベルを低密度細胞と通常の細胞密度の場合とで比較した。その結果、他のヒストンH3メチル化修飾(K4トリメチルやK27トリメチル、K36トリメチル)などでも、低密度培養の細胞のほうが高いレベルを示すことが分かった。一方、アセチル化のレベルは、低密度修飾で減少することが分かった。そこで次に、免疫染色での染色効率による懸念を考慮し、通常よりも10倍以上の高密度で一日以上培養した細胞の培地上清を、低密度培養の細胞に加え、ヒストン修飾がどのように変化するのかを調べた。その結果、試みたすべてのヒストンアセチル化は上昇し、またヒストンメチル化は減少した。したがって、この現象は、細胞密度による培地からの影響によるものであると考えることができる。そこで高細胞密度から培養したときの培養上清を50、30、10、3 kDaのサイズで分画し、どの画分にヒストン修飾を変化させるものがあるのかを調べた。その結果、アセチル化およびメチル化ともに、3 kDa以下の画分に寄るものであることがわかった。また細胞周期との関わりを調べたところ、培養上清の添加は、特定の細胞周期における修飾レベルを変化させているというよりは、全体のレベルを変えていることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
これまでのところ、順調に計画を遂行している。まず、平成25年度の研究計画のひとつである、[細胞密度の変化と細胞周期との関わり]については、あまり相関がないことが確認できた。さらに、細胞密度依存的に、[どのヒストン修飾が変化するか]を調べることについては、ほとんどすべてのメチル化およびアセチル化が変化することが結論づけられた。現在、[細胞種間における相違の検出]について進めており、現在のところ、2種類の細胞に対して試みたが、概ね同様の傾向がみられることが分かった。
平成25年度の研究により、細胞密度依存的な変化をもたらす画分が、高密度培養による培養上清の3kDaにあることが分かった。そこで今後は、具体的に何が原因であるかを同定していきたい。併せて、その因子が変化することで、ヒストン修飾に変化をもたらす機構の解明に迫りたい。また、当初の予定通り、平成26年度以降には、ChIP-seqなどを行うことにより、細胞密度が変化することによって、どのような遺伝子の発現が変化するのかを明らかにしたい。
平成26年度以降からは、ChIP-seqを行う計画であり、この実験は極めて高額なため、使用金額はできるだけ抑えるように心がけた。さらに平成25年度の結果から、平成26年度以降には、質量分析を行う可能性も考慮した。また、近郊の学会に参加することにより、出張費を安く抑えることができた。主に、ChIP-seqの実験費用に用いる。場合によっては、質量分析を行う。
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