研究課題/領域番号 |
25503002
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
林 陽子 東京工業大学, 生命理工学研究科, 産学官連携研究員 (50397551)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヒストン修飾 / アセチル化 / メチル化 |
研究実績の概要 |
エピジェネティクスは、後天的遺伝情報とも呼ばれ、細胞周期・分化・癌化など様々な生命現象に深く関わる。ヒストン修飾はDNAメチル化と共にエピジェネティクス形成に関わり、遺伝子の発現調節に大きな影響を及ぼす。 本研究では、細胞密度依存的にヒストン修飾のレベルが変化することに着目し、細胞密度依存的なエピジェネティクス制御と遺伝子発現調節の解明を目標とする。昨年度までに、細胞密度を通常の培養条件よりも10~30分の1にすると、様々なヒストンH3メチル化修飾(K4、K9、K27、K36などのトリメチル)などで、低密度で培養した細胞のほうが高いメチル化レベルを示すことが分かった。一方、アセチル化修飾は、低密度培養では低下することが分かった。また、このヒストン修飾の変化は、細胞接触などによるものというよりは培養培地の影響によるものであることも突き止めた。そこで本年度では、高細胞密度から培養したときの培養上清を50、30、10、3 kDaのサイズで分画し、どの画分にヒストン修飾を変化させるものがあるのかを調べた。その結果、アセチル化およびメチル化ともに、3 kDa以下の画分に寄るものであることがわかった。面白いことに、アセチル化では数時間の処理で変化が見られたものの、メチル化では丸一日処理をしないと変化が見られないことも分かった。そこで高密度培養で分泌する低分子量物質として探索したところ、乳酸が考えられた。そこで、乳酸を培地に加えて数時間経ったところで細胞を回収しヒストン修飾の変化を確かめたところ、試したすべてのアセチル化が上昇することが分かった。乳酸には、脱アセチル化酵素阻害剤として働くことが報告されており、これが濃度依存的なヒストン修飾の変化を導く一因であろうことが考えられた。一方で、メチル化の変化は短時間では見られないことから、メチル化修飾の変化にはさらに別の機構が関わると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのところ、順調に計画を遂行している。 平成26年度の研究により、細胞密度依存的な変化をもたらす因子のひとつとして、乳酸が考えられることが分かった。乳酸は脱アセチル化阻害剤として働くことから、そのメカニズムとしてアセチル化の急な上昇の原因とも一致することが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、培養条件の違いが生じるヒストンメチル化の変化を焦点にあて、どのような制御機構があるのかを明らかにしたい。また乳酸がどの程度ヒストン修飾を変化させるのかを詳しく検討する。さらにいくつかのヒストン修飾に関しては、ChIP-seqを用いることにより、細胞密度に依存的にどのような遺伝子の発現が変化するのかを明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたChIP-seqに関わる研究を来年度に行うことにしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度にChIP-seqに関する研究を行う。また今年度は学会や打ち合わせ等により旅費を使用させていただく。
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