研究課題
マウス生殖細胞におけるレトロトランスポゾンのエピジェネティック制御機構を明らかにするため、Dnmt3L (DNAメチル化に関与)ならびにPld6(生殖細胞特異的な小分子RNAであるpiRNA合成に必須)の変異体および二重欠損変異体から生殖細胞を分離し、全ゲノムバイサルファイトシーケンシングでDNAメチル化状態を、RNA-seq解析で各レトロトランスポゾンの発現レベルを解析した。その結果、初期の生殖細胞(前駆精原細胞)におけるレトロトランスポゾンの制御にはDNAメチル化は重要ではなく、piRNAによる転写後抑制機構が重要であることを明らかにした。一方、減数分裂を開始した細胞(精母細胞)ではpiRNAによる制御よりもDNAメチル化による転写レベルでの抑制が重要であり、生殖細胞の発生段階にに従って抑制システムが大きく変化することを明らかにした。また、piRNAを介したDNAメチル化機構が提唱されていたが、網羅的な解析により、そのような機構はごく一部のレトロトランスポゾンだけで見られ、一般的ではないことを明らかにした。(投稿準備中)さらに、Hsp90αの変異体を解析し、前駆制限細胞でのpiRNA合成が異常になることを明らかにした。piRNA合成に関わるタンパク質の発現は変化しないが、Miwi2が核移行できなくなっていた。レトロトランスポゾンのDNAメチル化には異常はなく、mRNAの産生量も変化はなかったが、タンパク質レベルでは10倍以上に発現が上昇しており、Hsp90αおよびpiRNAシステムは主に転写後制御に作用していると考えられる。(Ichiyanagi et al. Nucleic Acids Res 42, 11903-11911, 2014)
1: 当初の計画以上に進展している
piRNAを介したDNAメチル化機構の一般性を検証し、レトロトランスポゾン制御ネットワークを明らかにするという当初の計画は達成され、さらにpiRNAとDNAメチル化が各発生段階でどのように機能しているのかまで明らかにできた。また、分子シャペロンとpiRNA合成、DNAメチル化の関係も明らかにし、シャペロンの作用点まで考察できるに至った。
Dnmt3LとPld6の変異体解析をさらに進める。特にDnmt3lについては全ゲノムレベル解析したことにより、レトロトランスポゾンに特化したものではなく、生殖細胞のリプログラミング機構という観点からも非常に興味深い知見を得ているので、今後さらに解析を進める。Hsp90の研究テーマは今後、変異体の精母細胞での解析を進め、どうして減数分裂がストップするのかを明らかにし、その作用点となる分子の同定も目指して、トランスクリプトームやプロテオーム解析を進める。
マルチプレックスで解析することにより、大規模シーケンサーにかかる経費を軽減できたため。
次年度においては、大規模シーケンサーによる追加解析や質量分析計を用いたプロテオーム解析(受託)を計画しており、その費用のために使用する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)
Nucl. Acids Res.
巻: 42 ページ: 11903-11911
10.1093/nar/gku881
Cell Cycle
巻: 13 ページ: 3625-3626
10.4161/15384101.2014.980704