呼吸器疾患の発症における脂肪酸分画および脂肪酸代謝酵素の病態意義

2013 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 25504002
• 研究種目: 基盤研究(C)
• 研究機関: 群馬大学
• 研究代表者: 松井 弘樹 群馬大学, 保健学研究科, 助教 (20431710)
• 研究分担者: 横山 知行 群馬大学, 保健学研究科, 教授 (70312890)
• 研究期間 (年度): 2013-04-01 – 2016-03-31
• キーワード: 脂肪酸分画 / 肺線維症 / 肺気腫 / 触媒酵素 / 肺サーファクタント / 飽和脂肪酸 / 不飽和脂肪酸

研究概要

申請者らはこれまで、遊離脂肪酸とその触媒酵素が心血管に及ぼす影響について研究を行ってきた。その結果、細胞内に取り込まれた飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸へ変換する作用を有するStearoyl-CoA desaturase-1（SCD1）、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸の脂肪酸鎖長を伸長させるElongation of long chain fatty acid 6（Elovl6）という酵素が心臓や血管に発現しており、SCD1、Elovl6の局所的な活性の亢進または低下が、細胞内の脂肪酸分画のバランスを変化させることで、心血管病の発症や進展に強く影響していることを明らかにした。
さらに我々は、肺におけるSCD1とElovl6の発現および病態意義について検討を行った。その結果、SCD1、Elovl6ともにII型肺胞上皮細胞に発現が認められ、肺線維症の標本で発現が減弱すること、また、Elovl6欠損マウスにブレオマイシン気管支投与を行い肺線維症モデルを作成したところ、野生型マウスと比較して著明な肺線維症の増悪を認めた。さらに、マウスの肺から脂質を抽出し、脂肪酸組成を測定したところ、飽和脂肪酸であるパルミチン酸の増加、不飽和脂肪酸であるオレイン酸の減少を認め、増加したパルミチン酸がII型肺胞上皮細胞における酸化ストレスの亢進や、線維化の病態形成に重要なTGF-β1の発現を誘導することも明らかにした。したがって、肺におけるElovl6の発現低下は、細胞内の脂肪酸分画のバランスを変化させ、肺線維症の発症および進展に強く影響することが示唆された[Sunaga H, et al. Nat Commun. 2013]。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

肺線維症とElovl6との関連性については、すでに論文成果として報告した[Nat Commun. 2013]。
肺気腫とElovl6、SCD1との関連性についても、現在、基礎研究が進行中である。

今後の研究の推進方策

今後は肺気腫とElovl6、SCD1との関連性について、ノックアウトマウスや培養細胞を用いた基礎的な検討を進めていくとともに、臨床研究として、肺線維症、肺気腫の患者サンプルを用いて、脂肪酸分画の測定やElovl6、SCD1の発現量・活性と病態との関わりについて、詳細に検討していきたい。

次年度の研究費の使用計画

前年度は肺線維症とElovl6の論文報告をまとめるために、そのテーマに集中して実験を行う必要があり、その他に予定した基礎実験を十分に行う時間的余裕がなかったため、当初の予定額を使用しなかった。
平成26年度に繰り越した研究費に関しては、平成25年度で解析できなかった肺気腫とElovl6、SCD1の実験に関する基礎実験、および臨床検体の解析費用に充てる予定である。
主な内訳としては、マウス飼育費、病態モデル動物の作成費、ノックアウトマウスや呼吸器疾患患者における肺組織・血液・培養細胞サンプルにおける脂肪酸分画の測定、PCR用試薬、抗体、初代培養細胞試薬、などである。

研究成果

• [雑誌論文] Fatty Acid Binding Protein 4 and 5 Play a Crucial Role in Thermogenesis under the Conditions of Fasting and Cold Stress (2014)
  • 著者名/発表者名: Mas Rizky A. A. Syamsunarno, Tatsuya Iso, Aiko Yamaguchi, Hirofumi Hanaoka, Mirasari Putri, Masaru Obokata, Hiroaki Sunaga, Norimichi Koitabashi, Hiroki Matsui, Kazuhisa Maeda, Keigo Endo, Yoshito Tsushima, Tomoyuki Yokoyama, Masahiko Kurabayashi
  • 雑誌名: PLoS One 巻: 9(3) ページ: e90825
  • DOI: 10.1371/journal.pone.0090825
  • 査読あり
• [雑誌論文] Palmitic Acid Induces Osteoblastic Differentiation in Vascular Smooth Muscle Cells through ACSL3 and NF-κB, Novel Targets of Eicosapentaenoic acid (2013)
  • 著者名/発表者名: Aiko Kageyama, Hiroki Matsui, Masahiko Ohta, Keisuke Sambuichi, Hiroyuki Kawano, Tatsuto Notsu, Kazunori Imada, Tomoyuki Yokoyama, Masahiko Kurabayashi
  • 雑誌名: PLoS One 巻: 8(6) ページ: e68197
  • DOI: 10.1371/journal.pone.0068197
  • 査読あり
• [雑誌論文] Capillary Endothelial Fatty Acid Binding Proteins 4 and 5 Play a Critical Role in Fatty Acid Uptake in Heart and Skeletal Muscle (2013)
  • 著者名/発表者名: Tatsuya Iso, Kazuhisa Maeda, Hirofumi Hanaoka, Toshihiro Suga, Kosaku Goto, Mas Rizky A.A Syamsunarno, Takako Hishiki, Yoshiko Nagahata, Hiroki Matsui, Masashi Arai, Aiko Yamaguchi, Nada A. Abumrad, Motoaki Sano, Makoto Suematsu, Keigo Endo, Gokhan S. Hotamisligil, Masahiko Kurabayashi
  • 雑誌名: Arterioscler Thromb Vasc Biol 巻: 33 ページ: 2549-2557
  • DOI: 10.1161/ATVBAHA.113.301588
  • 査読あり
• [雑誌論文] Deranged fatty acid composition causes pulmonary fibrosis in Elovl6-deficient mice (2013)
  • 著者名/発表者名: Hiroaki Sunaga, Hiroki Matsui, Manabu Ueno, Toshitaka Maeno, Tatsuya Iso, Mas Rizky A.A Syamsunarno, Saki Anjo, Takashi Matsuzaka, Hitoshi Shimano, Tomoyuki Yokoyama, Masahiko Kurabayashi
  • 雑誌名: Nat Commun 巻: 4 ページ: 2563
  • DOI: 10.1038/ncomms3563
  • 査読あり
• [雑誌論文] A critical role of fatty acid binding protein 4 and 5 (FABP4/5) in the systemic response to fasting (2013)
  • 著者名/発表者名: Mas rizky A. A. syamsunarno, Tatsuya Iso, Hirofumi Hanaoka, Aiko Yamaguchi, Masaru Obokata, Norimichi Koitabashi, Kosaku Goto, Takako Hishiki, Yoshiko Nagahata, Hiroki Matsui, Motoaki Sano, Masaki Kobayashi, Osamu Kikuchi, Tsutomu Sasaki, Kazuhisa Maeda, Masami Murakami, Tadahiro Kitamura, Makoto Suematsu, et al.
  • 雑誌名: PLoS One 巻: 8(11) ページ: e79386
  • DOI: 10.1371/journal.pone.0079386
  • 査読あり
• [学会発表] Fatty acid catalytic enzymes in vascular smooth muscle cells play a crucial role in the pathogenesis of atherosclerosis
  • 著者名/発表者名: Hiroki Matsui, Tomoyuki Yokoyama, Hiroaki Sunaga, Saki Anjo, Tatsuya Iso, Masahiko Kurabayashi
  • 学会等名: ESC Congress 2013
  • 発表場所: アムステルダム（オランダ）
• [学会発表] 肺線維症における脂質代謝の変化と病態意義に関する検討
  • 著者名/発表者名: 須永 浩章, 松井 弘樹, 上野 学, 前野 敏孝, 磯 達也, 松坂 賢, 島野 仁, 横山 知行, 倉林 正彦
  • 学会等名: 第20回日本未病システム学会学術総会
  • 発表場所: 学術総合センター（東京都）
• [学会発表] 食事が血管依存性血管拡張反応（FMD）にもたらす影響について
  • 著者名/発表者名: 松井 弘樹, 石井 智晃, 河口 智香, 安生 早希, 須永 浩章, 横山 知行
  • 学会等名: 第20回日本未病システム学会学術総会
  • 発表場所: 学術総合センター（東京都）
• [学会発表] Effects of long chain fatty acid composition regulated by Elovl6 on the proliferation of vascular smooth muscle cells.
  • 著者名/発表者名: 安生 早希, 松井 弘樹, 須永 浩章, 磯 達也, 倉林 正彦, 横山 知行
  • 学会等名: 第78回日本循環器学会総会・学術集会
  • 発表場所: 東京国際フォーラム（東京都）
• [学会発表] Fatty Acid Binding Protein 4 is a direct target gene of Dll4-Notch1 pathway in Capillary Endothelial Cells in Heart.
  • 著者名/発表者名: 河口 智香, 磯 達也, 矢嶋 直人, 松井 弘樹, 横山 知行, 倉林 正彦
  • 学会等名: 第78回日本循環器学会総会・学術集会
  • 発表場所: 東京国際フォーラム（東京都）
• [学会発表] Circulating FABP4 is released from adipocytes and capillary endothelial cells by sympathetic activation via beta3 receptor during acute cardiovascular event.
  • 著者名/発表者名: 河口 智香, 磯 達也, 須永 浩章, Mas Rizky A.A Syamsunarno, 松井 弘樹, 大山 善昭, 横山 知行, 倉林 正彦
  • 学会等名: 第78回日本循環器学会総会・学術集会
  • 発表場所: 東京国際フォーラム（東京都）
• [学会発表] Fatty acid binding protein 4 and 5 differentially regulate formation of abdominal aortic aneurysm induced by calcium chloride in mice.
  • 著者名/発表者名: 石井 智晃, 磯 達也, Mas Rizky AA Syamsunarno, 須永 浩章, 松井 弘樹, 小板橋 紀通, 横山 知行, 倉林 正彦
  • 学会等名: 第78回日本循環器学会総会・学術集会
  • 発表場所: 東京国際フォーラム（東京都）
• [備考] 群馬大学大学院保健学研究科 生体情報検査科学講座 横山研究室
  • URL: http://heart.health.gunma-u.ac.jp