研究課題/領域番号 |
25504004
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
小林 哲幸 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50178323)
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研究分担者 |
相星 淳一 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 講師 (50256913)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 救急救命医療 / 脂質栄養 / 出血性ショック / 脂質メディエーター / 質量分析 / オメガ3脂肪酸 / 脂肪乳剤 / 魚油 |
研究実績の概要 |
必須脂肪酸の一種であるオメガ3系列脂肪酸は魚油に豊富に含まれ、種々の炎症病態において抗炎症作用を示すことが既に明らかにされている。一方、救急救命医療において、出血性ショックなどの重症病態におけるオメガ3系列脂肪酸の臨床栄養学的研究は皆無である。本研究では、出血性ショックモデルラットを用いて、オメガ3系列脂肪酸を強化した魚油脂肪乳剤を臨床に近い条件下で投与し、その抗炎症効果をin vivoで多面的に解析し評価することを目的とし、今年度は以下の実績が得られた。 (1) 出血性ショックモデルラットへの魚油脂肪乳剤投与実験条件の検討と抗炎症作用の評価:昨年度までの実験により、出血性ショック前に一定量の魚油脂肪乳剤を静脈内投与した場合、定圧性(一定の血圧目標を設定)の出血性ショック条件では、魚油脂肪乳剤投与により肺障害と腸管障害が有意に抑制された。今年度は、定量性(一定の脱血量を設定)のショック条件下で検討した結果、やはり腸管障害が有意に抑制された。また、心拍数や末梢組織への酸素供給量等の循環病態の改善効果が認められ、このことが出血性ショック病態の軽減化機能の一つであることが明らかとなった。 (2) 各種炎症性メディエーター、炎症関連分子の多面的測定:前項(1)の定圧性ショック条件において、血漿中の炎症性脂質メディエーターを質量分析装置で定量解析した。その結果、魚油脂肪乳剤投与群では、オメガ3系列脂肪酸代謝物であるHETEやHDoHEが有意に増加していることが示された。また、オメガ6系列のアラキドン酸代謝物のショック依存的な増加が、魚油投与群では抑制された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題開始3年目にあたる本年度の目標として、具体的には以下の実験項目を予定していた:1)出血性ショックモデルラットへの魚油脂肪乳剤投与と抗炎症作用の一般的評価、2)各種炎症性メディエーター、炎症関連分子の多面的測定。このうち項目1)については、ほぼ予定通りに魚油脂肪乳剤投与実験の条件が設定されて実験を行った。その結果、定圧性、及び定量性ショック条件下のいずれの場合においても、短期間の魚油脂肪乳剤投与によって、血中乳酸値、平均動脈血圧、及び心拍数経時変化などの循環系動態指標が有意に改善され、出血性ショックによる末梢組織の低酸素状態が緩和されることが示された。これは初期の実験計画では想定していなかったことであったが、新しい知見でありその機構についても今後解析することとした。また、血漿中の酸化脂肪酸を質量分析で定量した結果、魚油投与群ではオメガ3系脂肪酸代謝物の顕著な増加とオメガ6系代謝物の有意な減少が認められ、これらの血中脂肪酸代謝物の変動が病態の緩和に関与していることが示唆された。以上、当初計画とは異なる実験条件の検討も必要になったが、魚油脂肪乳剤投与の抗炎症効果をin vivoで多面的に解析し評価することを目的とした本課題の達成度としては、魚油の短期間投与が循環系動態の改善効果を示すとの新たな知見も得られており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 出血性ショックモデルラットへの魚油脂肪乳剤投与実験条件の検討と抗炎症作用の評価について:比較的強い定量性ショック条件下での血液循環動態や組織酸素代謝に関わる評価指標として、心拍出量、静脈血酸素飽和度、動脈血中乳酸、動脈血pH、心拍・血圧変動、脱血量等を定量的に解析する。また、魚油脂肪乳剤を前投与したラットに一定量の脱血処理を行う定量的ショック条件下で臓器障害などを測定し抗炎症作用を評価する。また、生体顕微鏡を用いて急性炎症における白血球動態の評価も行う。さらに、in vivo imaging system (IVIS)装置を用いて、生きたラットで血管透過性や活性酸素産生、エラスターゼ産生などを測定し、急性炎症症状を多面的に評価する予定である。 (2) 各種炎症性メディエーター、炎症関連分子の多面的測定について:今後は、質量分析を用いた脂質メタボローム解析により、酸化脂肪酸以外のリン脂質などの脂質分子を網羅的に解析し、新規抗炎症性メディエーターも含めて解析する予定である。以上の炎症関連分子の定量結果を総合的に考察し、オメガ3系列脂肪酸による循環系動態改善作用や抗炎症作用機構について明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
定圧性のみならず定量性ショック条件下においても、当初想定していなかった興味深い循環系動態改善作用が観察されたため、再現性を含めて動物実験を数多く繰り返した。そのため、比較的高額な試薬類を必要とする質量分析実験が当初計画よりも少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画していた動物実験、生体顕微鏡観察、および質量分析などの実験に用いる試薬や溶媒を購入する費用に充当し、研究をさらに深めて推進する予定である。
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