研究課題/領域番号 |
25504006
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研究機関 | 神奈川県立保健福祉大学 |
研究代表者 |
山西 倫太郎 神奈川県立保健福祉大学, 保健福祉学部, 教授 (30253206)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | β-カロテン / マクロファージ / グルタチオン / グルタミン酸システインリガーゼ / レチノイン酸受容体 |
研究実績の概要 |
抗原提示細胞の酸化還元状態は、免疫系の司令塔であるヘルパーT細胞の分化に影響する。一方、マウスに高ビタミンEとともにβ-カロテンを摂取させた場合、抗原投与により誘導されるIgE抗体の産生が低下し、1型ヘルパーT細胞活性が亢進する。これに対して、β-カロテンが抗原呈示細胞の酸化還元状態の調節を介して免疫系に影響を及ぼしたのではないかとの仮説を立て、それを検証するため抗原提示細胞の一種であるマクロファージの培養細胞RAW264細胞を用いて種々の検討を行い、その結果、β-カロテンを培地に添加すると、マクロファージ内において抗酸化物質グルタチオン(GSH)を合成する酵素であるグルタミン酸システインリガーゼ(GCL)の産生が誘導され、GSH量が増加することを見出している。本研究では、β‐カロテンがGCL産生をもたらすまでのメカニズムを解明する目的で、β-カロテンが代謝された後に生成するレチノイド受容体の関与について検討した。レチノイン酸受容体(RAR)αアンタゴニスト、レチノイン酸受容体(RAR)βγアンタゴニスト、レチノイドX受容体(RXR)アンタゴニストを用いてβ-カロテンによるRAW264細胞内GSH量増加に対する影響を検討したところ、いずれのアンタゴニストを用いた場合も、β-カロテン誘導性のGSH増加量が部分的に抑制された。RARは必ずRXRとのヘテロ二量体を形成して作用を発揮するが、RXRはその他のたんぱく質(例えばビタミンD受容体)とも二量体を形成して作用する。このことから、RARがRAW264細胞内におけるβ-カロテン誘導性のGSH増加量に部分的に関与している可能性が示唆された。ただし、RARαに選択的なはずのアンタゴニストもRARβγに選択的なはずのアンタゴニストも両方ともが抑制的に作用したので、今後はいずれの受容体が作用しているのかを明確にしたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、研究代表者が研究機関を異動した。それゆえ、率直に言って、研究を再始動するまでに時間を要した。しかし、β-カロテンの代謝により生成したレチノイン酸がRAW264細胞内GSH量増加に関与している可能性を新たに示唆することができ、研究の進展はあったと考えている。「β‐カロテンが生体の抗酸化性に寄与する」と語られることは多いが、これまで植物では明らかであったものの、動物における作用については、科学的な裏付けは皆無と言ってよい状況であった。本研究では、昨年度に明らかにしたmitogen-activated protein kinase(MAPK)系の関与と併せて、β‐カロテンが細胞内GSH量を増加させる際に動員する細胞内メカニズムの解明を着々と進めており、β‐カロテンの抗酸化性について科学的な裏付けを持って説明することに貢献できているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
レチノイン酸受容体αに選択的なはずのアンタゴニストもレチノイン酸受容体βγに選択的なはずのアンタゴニストも両方ともが、β‐カロテンが細胞内GSH量を増加させる作用に対して抑制的な影響を及ぼしたので、今後はいずれの受容体が関与しているのか、あるいは両方関与しているのが事実なのかを、アンタゴニストではなく選択的アゴニストを使った実験により解明したいと考えている。どのアゴニストを用いた場合に、RAW264細胞のGSH産生量が増加するのかを検討することにより、それを明らかにできると考えている。さらに、前年度の研究で明らかにしたmitogen-activated protein kinase(MAPK)系との関係性についても検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、研究代表者が研究機関を異動したため、研究環境を整え、研究を開始できるようになるまでに時間を要した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度未使用額については、平成27年度申請額と併せ、前述の通り培養細胞実験系においてまずレチノイン酸受容体系の関与の詳細について検討するとともに、マウス摂食実験も行うことで、使い切る計画である。
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