ヒトの全ゲノム上の個体差を網羅的に分析するゲノムワイド関連解析(GWAS:genome wide association study)が実施され、70個以上の糖尿病リスク遺伝子のSNPが検出されている。しかしながら、これらの多くはイントロン領域や3’UTRに存在し、それらが糖尿病の発症に与える機能的意義についてはほとんどわかっていない。一方、microRNA(miRNA)はタンパク質をコードする遺伝子の3’UTRに結合することで、その発現を制御することが知られている。本研究はmiRNAによる発現制御を受ける糖尿病リスク遺伝子を同定することを目的とした。 データーベースを用いたin silico 解析により7種類の糖尿病リスク遺伝子の3’UTRに存在する11個のSNP領域にはmiRNAが結合する可能性が示唆された。そこで、健康診断受診者のうち糖尿病と診断された323名と対照448名について、これらの遺伝子のSNPの遺伝子型を調べたところ、HNF1Bの遺伝子型と糖尿病との間に強い関連が(P=0.004)が検出された。そこで、HNF1Bの3’UTR領域を含むルシフェラーゼ発現ベクターを作成し、このSNP領域に結合するmiRNAを探索した。その結果、2つのmiRNA(hsa-miR214、hsa-miR550a)がHNF1Bの3’UTR領域に結合し、その発現を調節していることがわかった。 また、ヒト肝臓由来株化細胞(HepG2細胞)を高グルコース環境下(16.5mM)で培養するとHNF1BのmRNAの発現量が増加したが、この時、HNF1B の3’UTR領域への結合が予測されるmiRNA(hsa-miR24-3p)の発現量は顕著に低下していた。以上のことから、糖尿病リスク遺伝子であるHNF1Bの発現調節にはmiRNAが重要な役割を果たしていることが示唆された。
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