研究課題/領域番号 |
25504008
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
山崎 泰広 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (80415330)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ABCG5 / ABCG8 / Gallstone / Liver / in vivo / Hydrodynamic injection / Trafficking |
研究実績の概要 |
食の欧米化(高カロリー食中心の食生活)による過栄養状態は、生体のコレステロール恒常性を乱すことにより、動脈硬化症、脳血管疾患、心臓病、胆石症等の重篤な疾患を引き起こす。特にコレステロールの体外への主要な排泄経路である肝臓から胆管への胆汁排泄、およびそれを担うABCG5/ABCG8コレステロールトランスポーターの発現・機能変化は、これら疾患発症のメカニズムを解明するうえで極めて重要である。本研究は、申請者らが構築した新規in vivo動態解析法を用いて、ABCG5/ABCG8の過栄養状態における細胞内トラフィキングへの影響とコレステロール胆石症発症との関係について解明することが目的である。2013年度の成果より、Abcg5/Abcg8の肝細胞内における毛細胆管膜への移行経路が明らかになり、また胆石症誘発食負荷によりこれらトランスポーターの毛細胆管膜への移行が促進することが明らかとなった。2014年度はこの移行促進に関与する翻訳後調節機構について調べた。その結果、i) 胆石症誘発食負荷による毛細胆管膜上でのAbcg5/Abcg8の発現増加がPKA阻害剤であるH-89で阻害されたこと、ii) cAMPアナログであるジブチリルcAMP (Bt2cAMP)をマウスに静脈投与することによりAbcg5/Abcg8の毛細胆管膜での発現が一過性に増加したこと、iii) 胆石症誘発食飼育マウスでは肝毛細胆管膜にPKAが移行したことから、Abcg5/Abcg8の食事による毛細胆管膜への移行促進にはPKAが関与する可能性が示唆された。また毛細胆管膜でのAbcg5/Abcg8発現増加の生理的意義を確認するため、胆石症誘発食負荷マウスの胆汁脂質成分の分析を行った。その結果、毛細胆管膜でのAbcg5/Abcg8の発現量とコレステロールの胆汁排泄量の間に高い相関関係があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2013年度はAbcg5/Abcg8の細胞内動態をin vivoで解析する系を確立し、それを用いて翻訳されてから毛細胆管までの移行経路を解明した。また胆石症誘発食負荷により、この移行が促進されることを見出した。2014年度はこの食事による移行促進にPKAを介したシグナル伝達系が関与する可能性を見出した。本成果は、食事や栄養状態の変化が肝トランスポーターの細胞内トラフィッキングに影響を及ぼすことを実験的に証明した初めての知見であり、コレステロール胆石症発症メカニズムを解明するために非常に重要な知見が得られたと考えている。さらにマウス肝臓に発現させたAbcg5-FLAG/Abcg8-YFPを免疫沈降で単離し、沈降物を解析した結果、翻訳後修飾としてAbcg8のチロシン残基がリン酸化される可能性を示唆するデータを得ることはできたが、ABCG5/ABCG8の小胞輸送を制御する新規分子の同定に関しては、進展を得ることはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、過栄養状態により誘導されるABCG5/ABCG8の膜局在化に関与する翻訳後修飾、およびその修飾機構について解明する。具体的にはチロシン残基をフェニルアラニンに置換した変異Abcg8-YFP発現遺伝子を構築し、Abcg5-FLAG/変異Abcg8-YFPをハイドロダイナミック法により高脂肪食負荷マウス肝臓に発現させる。摘出した肝臓から粗膜画分、肝毛細胆管膜画分、エンドソーム画分をショ糖密度勾配遠心方により調製し、抗YFP抗体でそれぞれ免疫沈降する。沈降物を電気泳動で分離し、抗チロシンリン酸化抗体によりリン酸化の有無を確認することでリン酸化部位を同定する。変異部位が同定されたら、その部位をフェニルアラニンに置換した変異Abcg8-YFP、およびAbcg5-FLAGを普通食飼育マウス肝臓にin vivo導入し、生体内における変異体のトラフィキング、およびコレステロール輸送能を調べる。さらに胆石症発症への関与が指摘されているSNPを導入した変異ABCG8-YFP発現遺伝子を構築し、マウス肝臓にABCG5-FLAGとともにin vivo導入し、生体内における動態とコレステロール輸送能を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在投稿中の論文が年度内に受理されなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
論文の掲載料に使用。
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