研究概要 |
過食・ストレスによりニューロペプチドY(NPY)はY2受容体(Y2R)を介してメタボリックシンドロームの発症に関与することがマウスで報告されている。私共は健診者でY2R遺伝子プロモーターの2か所の1塩基多型(SNP1,2)においてSNP1ではGGがAAより、SNP2ではTTがCCより血中HDL-C値が低いことを報告した。 本研究ではY2Rの発現が最も高くなると予想されるGG/TTと最も低くなると予想されるAA/CCを含むY2R遺伝子上流をルシフェラーゼ発現ベクターに組み込み、培養ヒト肝細胞HepG2と、ヒト単球細胞THP-1をホルボールエステルで分化させたマクロファージ、さらに脂肪前駆細胞3T3-L1をインスリン等を含むカクテルで分化させた脂肪細胞に各々一過性発現させて転写活性を比較した。HepG2ではGG/TTがAA/CCに比し有意に転写活性が高かった(ベクターのみの対照との比率でGG/TT 4.90 vs AA/CC 1.48, P<0.05)。逆にマクロファージではGG/TTがAA/CCに比し有意に転写活性が低いことが明らかになった(GG/TT 1.50 vs. AA/CC 2.72, P<0.05)。脂肪細胞では差を認めなかった。 血中HDL-Cは肝臓で産生されるApoAI, ApoA1結合蛋白, CETP, LCAT, SR-B1, 肝リパーゼなどの影響を受ける。そこで培養HepG2において、これらのmRNA発現をリアルタイム PCRで定量し、NPY、Y2R拮抗薬(BIIE)の影響を調べた。非添加対照やNPY単独に比し、BIIEあるいはBIIE+NPYでCETP、SR-B1 mRNA発現が減少傾向を認め、肝臓においてはNPYはY2Rを介してCETPやSR-B1の遺伝子発現を促進し、動脈硬化リスクとなる血中HDL-C値の低下を招く可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1)HepG2、マクロファージでY2R遺伝子転写活性にSNPの遺伝子型による差を認めているので、その分子機序を明らかにする。たとえばSNP1ではストレスで発現する転写因子Sp1との結合性をEMSAで、またSNP2ではメチル化との関係をバイサルファイト処理後の塩基配列決定などでSNPの遺伝子型間の違いを検討する。 2)マクロファージや血管内皮細胞でのHDL-Cに影響を与える分子群として、ABCA1, ABCG1, LIPGなどのmRNA発現がNPYやBIIEに影響されるかを検討する。HepG2やこれらの細胞で変化を認めた分子については、その変化が蛋白レベルでも認められるかELISA等で確認する。 3)購入可能なヒト脂肪細胞等を入手し、NPYとNPY+BIIEの2群でmRNAを抽出後、ConPathチップによる発現解析、GenMAPPによるpathway解析、ConPath Navigatorによる結果閲覧解析を行う。
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