研究課題/領域番号 |
25504009
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
加治 秀介 兵庫県立大学, 看護学部, 教授 (90224401)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ニューロペプチドY2受容体 / 血中HDL-C値 / SNPs / 転写活性 / EMSA / マイクロアレイ解析 / パスウェイ解析 |
研究実績の概要 |
過食、ストレスがニューロペプチドY2受容体(NPY2R)を介して内臓肥満を惹起することがマウスで報告され、私共はヒトにおけるNPY2R遺伝子上流のSNPs(rs6857530 GG/AA、rs6857715 TT/CC) と血中HDL-C値の関連性を報告した。また同SNPsによる本遺伝子転写活性を解析した結果、肝細胞HepG2ではGG/TTで、一方単球THP-1細胞から分化させたマクロファージ(Mφ)ではAA/CCで活性を有意に認めた。 この機序解明のために、GGまたはAAを含むオリゴDNAをビオチンで標識し、HepG2の核抽出物と結合させた電気泳動(EMSA)を行った結果、特異的なシフトバンドが共通してみられ、さらにGGではもう1つ特異的なシフトバンドを認めた。ストレスで上昇する転写因子SP1の結合予測配列にSNP GGはAAより近いため、この差が生じた可能性も考えられた。 さらに培養HepG2およびMφが各々のSNPsをヘテロに含むことをシークエンスで確認した後、NPYとNPY+NPY2R拮抗薬(BIIE)添加の2群で遺伝子発現をマイクロアレイで比較した。38500遺伝子のうちBIIEで1.5倍以上の増加がHepG2で863、Mφで377、0.67倍以下の減少がHepG2で559、Mφで299種類あった。Gene ontology解析では、HepG2の増加遺伝子群のなかにカイロミクロンリモデリング、コレステロール輸送、ステロール輸送の抑制調節が有意に抽出された。パスウェイ解析では、HepG2、Mφの増加遺伝子群に共通してHDL代謝を含むビタミンB12代謝、さらにHepG2の減少遺伝子群にはステロール応答配列結合蛋白(SREBP)シグナルが有意に抽出された。これらの結果はSNP GG/TTではAA/CCより血中HDL-C値が有意に低かった既報の結果と矛盾しなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に予定していたSNPによる転写活性の違いの機序解明については積み残していたが、今年度はSNPrs6857530のGGとAAの転写活性の違いをEMSAを用いて解析し、機序の一端を解明できた。一方rs6857715のTTとCCの転写活性の違いを解明するためにバイサルファイト法によるメチル化解析を現在も進めているが、結果をまだ得るには至っていない。 平成26年度以降の計画のうち、NPY2R拮抗薬による肝細胞HepG2、THP-1から分化させたマクロファージ(Mφ)での発現解析を一定程度進めることができた。HepG2ではリアルタイムPCRによる個別の関連遺伝子の調節では目立った変化はなかったが、マイクロアレイ解析で遺伝子群の変化をとらえるとgene ontologyやpassway解析で興味深い結果を得た。MφではリアルタイムPCRでHDL-C値に影響するABCA1やABCG1 mRNA量の変化も見られたが、マイクロアレイによる解析では関連を説明できる変化が見られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
rs6857715のTTとCCの転写活性の違いの可能性を解明するためにバイサルファイト法によるメチル化解析を実現する。HepG2、マクロファージ(Mφ)でのBIIEによる発現解析で不十分なところ、たとえばクラスター解析などについても検証する。 HepG2やMφと同様に新たに培養血管内皮細胞で各SNPsを含むNPY2R遺伝子上流を用いたルシフェラーゼアッセイを行い、転写活性に差があるか確認する。本細胞で当該SNPsを持つNPY2R遺伝子の転写活性を認めれば、発現するタイプのSNPを含むNPY2R遺伝子を当該細胞が含むかどうかをシークエンスにより確認する。発現するSNPタイプがシークエンスで確認できた場合はマイクロアレイやリアルタイムPCR法でBIIEによる影響を比較検討し、昨年度と同様にgene ontology解析やpassway解析を進める。 以上の結果によっては低HDL-C血症を予防するための対象を早期に選ぶバイオマーカーの開発、低HDL-C血症患者への治療への応用も視野に入れた安全なNPY2R拮抗薬の創薬など、動脈硬化症の先制医療、個別化医療への展開も期待しうる。
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