研究課題/領域番号 |
25504012
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研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
松本 明世 城西大学, 薬学部, 教授 (90192343)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 魚油 / ピオグリタゾン / インスリン抵抗性 / 脂質代謝 |
研究実績の概要 |
PPARγアゴニストであるピオグリタゾンは、インスリン抵抗性改善薬としてインスリン非依存性の2型糖尿病の治療薬として用いられているが、副作用として体重増加が治療上の問題となっており、アクトス(一般名:ピオグリタゾン)の市販後の調査であるPRACTICAL (prospective actos practical experiences)では、服用期間中に体重が維持された症例では治療効果が現れたが、体重増加が見られた症例では治療効果が失われたと報告されている。 本研究では、肥満・2型糖尿病モデルのKKマウスを用いて、魚油とピオグリタゾンの長期間の併用が肥満やインスリン感受性、血中脂質、脂肪細胞サイズの変化、糖質・脂質代謝にどのような影響を及ぼすかフェノタイプレベルで検討する。さらに、魚油とピオグリタゾンの併用効果がどのような分子メカニズムにより生じているのかを遺伝子発現レベルで明らかにし、肥満やインスリン抵抗性を伴う生活習慣病における、薬物療法と食事療法の併用による新しい治療法の開発を目指す。 当該年度の研究成果では、ピオグリタゾン単独摂取による推定皮下脂肪量と体重の増加が、10 energy% (en%)魚油の併用により抑制され、糖・脂質代謝が改善された。また、膵臓の組織学的解析として、HE染色を施した組織切片から、ランゲルハンス島のサイズの平均面積を算出したところ、魚油を与えた群では70~84%までランゲルハンス島のサイズが減少し、ランゲルハンス島の小型化が進んでいた。また、インスリンとグルカゴンの免疫染色の結果から、β細胞の平均面積がコントロール群と比較して、魚油を与えた群では71~85%まで減少した。魚油の摂取によりランゲルハンス島の肥大化、およびインスリン抵抗性によるβ細胞数の増加を抑制できる可能性があり、ピオグリタゾンとの併用時の有効性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、肥満・インスリン抵抗性を伴う生活習慣病における、長期的な魚油とピオグリタゾンの併用摂取の有効性を示すともに、フェノタイプレベルの解析、魚油の主な標的器官である肝臓、ピオグリタゾンの主な標的器官である内臓脂肪組織において、魚油とピオグリタゾンの併用効果がどのように生じているのかを遺伝子レベルで明らかにし、タンパク発現の解析結果を統合し、両者の併用効果の分子メカニズムを明らかにする。このことにより、肥満やインスリン抵抗性を伴う生活習慣病における、薬物療法と食事療法の併用による新しい治療法の開発を目指す。 当該年度は、ヒトにおける投薬量に近づけた低用量のピオグリタゾンと魚油を併用した場合の有効性の確認、また、ピオグリタゾン単独で有効性が見られなかった用量において魚油を増加させることで併用効果が現れる可能性があるため、魚油の用量を増加させた場合の有効性を検討することを視野にいれ、魚油またはピオグリタゾンの用量を変えて有効性を明らかにする。結果、ピオグリタゾンによる体重増加は、EPAとDHAを多く含有する魚油を併用することで低減でき、肝臓脂肪蓄積を抑制することで、糖・脂質代謝が改善された。一方、魚油併用による膵臓への保護作用について、膵臓の組織学的解析および遺伝子発現プロファイルの解析を進めている。これまでの成果で、魚油は、2型糖尿病でみられるランゲルハンス島の肥大化、およびインスリン抵抗性によるβ細胞数の増加を抑制できる可能性があり、ピオグリタゾンとの併用時にその効果が強くなることが示唆された。現在は、ピオグリタゾンの用量を変えて、ヒトにおける投薬量に近づけた低用量のピオグリタゾンと魚油を併用した場合の有効性を検討中であり、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
当該研究では、ヒトにおける投薬量に近づけた低用量のピオグリタゾンと魚油を併用した場合の有効性の確認、また、ピオグリタゾン単独で有効性が見られなかった用量において魚油を増加させることで併用効果が現れる可能性があるため、魚油の用量を増加させた場合の有効性を検討することを視野にいれ、魚油またはピオグリタゾンの用量を変えて有効性を明らかにする。平成25~26年度の研究成果により、ピオグリタゾンによる体重増加は、魚油を併用することで低減でき、肝臓脂肪蓄積を抑制することで、糖・脂質代謝が改善されることを明らかにした。一方、魚油併用による膵臓への保護作用について、膵臓の組織学的解析および遺伝子発現プロファイルの解析を進めている。これまでの結果で、魚油は、2型糖尿病でみられるランゲルハンス島の肥大化、およびインスリン抵抗性によるβ細胞数の増加を抑制できる可能性があり、ピオグリタゾンとの併用時にその効果が強くなることが示唆された。 本研究は、①長期間の魚油とピオグリタゾンの併用による糖・脂質代謝の改善作用の増強、②ピオグリタゾンの副作用である体重増加の抑制、③魚油と併用することによるピオグリタゾン投薬量の減少を目指した最小有効量の検討を重点課題としている。具体的には、肥満と2型糖尿病モデルのKKマウスを用いて、魚油とピオグリタゾンの併用による有効性についてフェノタイプレベルでの解析、魚油の脂質代謝改善作用の標的器官である肝臓、ピオグリタゾンのインスリン感作作用の標的器官である脂肪組織を中心とした遺伝子やタンパク質発現解析を包括的に行う。チアゾリジン誘導体と魚油の併用がもたらす有益性と、そのエネルギー代謝および糖・脂質代謝の変化に関わる分子メカニズムを明らかにし、薬物療法と食事療法を併用した、持続可能な糖尿病の治療法の開発のための基礎的エビデンスを提供できるよう研究を推進する。
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