アルツハイマー病は記憶を司る海馬を中心とした神経細胞の細胞死により、記憶や思考能力が障害され、最終的には日常的に行われる簡単な作業さえもできなくなってしまう病気である。アルツハイマー病患者の脳内ではアミロイドβタンパク質(アミロイドβ)が凝集してアミロイド斑として沈着し、やがて神経細胞が死滅することから、アミロイドβがアルツハイマー病の原因物質と考えるアミロイド・カスケード仮説が有力となっている。本年度は、これまでのPC12細胞を用いたアミロイドβの細胞傷害評価に加えて、ラット神経細胞の初代培養を用いた実験を行った。 これまではラット副腎褐色種PC12細胞を神経成長因子で分化誘導させた神経様細胞にアミロイドβを処理し、細胞傷害をMTT法やLDH法を用いて検討を行っていた。しかしながら、細胞分化の程度によりアミロイドβ刺激後の細胞生存率が異なること、アミロイドβ未処理の細胞においても培養時間が長くなることにより細胞生存率の低下が見られ、再現性の高い結果を得ることは困難だった。そこで、ラット大脳より神経細胞を単離し、初代培養実験を並行して行い、PC12細胞と比べると、アミロイドβにより比較的安定した結果が得られた。そこで、アミロイドβによる神経細胞傷害を硫化水素のドナー化合物であるNaHSやNa2S、ガーリック由来硫化水素ドナーのdiallyl trisulfide(DATS)をPC12神経細胞と、ラット神経細胞の初代培養に前処理した後、アミロイドβを処理することでアミロイドβによる細胞障害を抑制できるか検討した。神経細胞にアミロイドβを処理することで細胞障害が誘導されたが、硫化水素ドナーの前処理ではその細胞傷害を抑制することができなかった。以上の結果から、細胞レベルではアミロイドβによる神経細胞傷害を外因的な硫化水素ドナーは抑制できないことが明らかとなった。
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