研究課題
間葉系幹細胞は、すでに臨床的利用が始まっている幹細胞であるが、高齢者から分離しにくい、あるいは、必要時にすぐ使えない等の問題点が存在する。ヒトの人工多能性幹細胞 (iPS細胞) などの多能性幹細胞は様々な細胞へ分化できるので、多能性幹細胞から誘導した間葉系幹細胞が使用できればこれらの問題点を解決できる。本研究では、ヒトiPS細胞由来の間葉系幹細胞 (MSC) の臨床応用を目指し、実験動物(マウス)での疾患モデルを使って、iPS細胞由来間葉系幹細胞の投与による治療効果を解析、判定する。平成26年度は、これまでの神経上皮細胞(神経堤細胞)がその起源細胞であるという知見に加えて、その他の発生途中組織からもMSCが発生することを明らかとした。またヒトiPS細胞の試験管内での分化誘導系を用いて中間段階細胞である細胞を可視化し、同定しながら、その分化経路を明らかとし、MSCの誘導方法を確立した。誘導したMSCでの遺伝子発現、細胞表面マーカー、コロニー形成能を調べ、すべてMSCへ矛盾しないことを確認した。一方、誘導したヒトiPS細胞由来MSCを疾患モデルマウスへの移植実験も行なった。その結果、移植群では非移植群に比べて明らかに効果があることが確認された。これは将来、ヒトへの応用を考える上で非常に重要な結果である。また別の疾患モデルについてもマウスにて構築し、コントロールとして、マウス骨髄由来MSCを移植し、その効果を確認した。平成27年度以降、このモデルでの効果についても研究を進める予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、平成27年度にモデルマウスでの効果判定をする予定であったが、すでに1つの疾患モデルで効果ありの結果を得ることができた。そこで、平成27年度は当初予定に無い別の疾患にも投与を予定している。以上より、予定以上に進んでいると判断した。
平成27年度は、計画に沿って、モデルマウスでの治療効果を解析しながら、そのメカニズムについても解析を進めていく。平成26年度までに達成できた間葉系幹細胞(MSC)をヒトiPS細胞から中間段階細胞をモニタリングしながら誘導できるようになった成果は、今後の臨床応用を考えると非常に重要である。MSCは成体の骨髄等に広く分布し、線維芽細胞状の形態をもつ試験管内で増殖を維持可能な幹細胞である。この細胞は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞に分化する能力をもっている。ヒトの場合、骨髄由来のMSCを使った骨・軟骨再生の臨床応用がすでに始まっている。最近では炎症による細胞反応を抑制し疾患への治療効果があることが、疾患モデル動物を使った研究から明らかにされ、ヒトの炎症を伴う疾患、たとえば関節リウマチ、肝硬変症、炎症性腸疾患、急性腎炎の治療応用が期待されている。しかし、間葉系幹細胞を個人の骨髄から個別に患者ごとに採取することには限界があり、広く臨床に応用するにはいくつかの以下:高齢者から採取しにくい、採取に侵襲を伴うことから症例が限定される、個別に作成するため医療費用が高額、採取増幅設備の無い一般病院では治療が受けにくい、個別作成による安全性検査の手間など、医学的、医療上の問題点が存在する。これらの問題点を解決し、間葉系幹細胞の幅広い利用を可能とするために、iPS細胞由来の間葉系幹細胞を用いることは利便性が高くまた低価格であり費用対効果を上げることにもつながる。以上の点から、社会への成果の還元についても貢献度は高い。本研究で得られた成果はラボサイズなので、さらに実用化に量産について検討したいと考えている。
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PLoS One
巻: 9 ページ: e113052
10.1371/journal.pone.0113052