研究課題
昨年度から引き続き、ヒトiPS細胞から大型動物移植用に大量の心筋細胞を効率よく分化、純化精製する系の開発を行い、プロトコールを確定した。大量浮遊培養による心筋分化、純化精製法は論文化し、iPS細胞移植による最大の懸念である腫瘍化の抑制が国際的に高く評価された。(Stem Cells Transl Med. 2014 Dec;3(12):1473-83, ISSCR 2014 travel award)昨年度に樹立したNkx2-5-DsRed ノックインiPS細胞に続き、本年度はヒトiPS細胞にペースメーカー細胞特異的な遺伝子であるHCN4に蛍光タンパクのtdTomatoをノックインした組換えiPS細胞を樹立した。すなわち、HCN4のプロモーター下にtdTomatoを挿入したdonor vectorを完成させ、CRISPR/Cas9を用いてヒトiPS細胞にノックインした。薬剤耐性のコロニーをピックアップし、細胞株化した。junction PCRとサザンブロットにより適切にtdTomatoがノックインされ、かつoff targetにノックインされていない細胞株を選択した。Nkx2-5-DsRed iPS細胞とHCN4-tdTomato iPS細胞を心筋細胞に効率よく分化誘導させることにより、表現形を確認した。心筋細胞の分化が進むに従い、Ds-RedとtdTomato陽性の細胞が増加することを確認した。また、蛍光顕微鏡、FACSによりDs-RedとtdTomatoの発現を確認し、他の心筋細胞特異的マーカーと共染色することで性質を確認した。ブタにテレメトリー送信機を植え込み不整脈の評価系を確立した。また、ブタの電気生理検査のシステムを検討し、カテーテルアブレーションを用いて洞不全症候群、房室ブロック、心室頻拍のブタに心筋細胞およびペースメーカー細胞を移植する体制を整えた。
2: おおむね順調に進展している
ヒトiPS細胞から心筋細胞への分化効率は安定しておらず、大型動物に移植するだけの細胞を獲得するのは非常に困難である。この問題を大量分化培養の系を確立することで解決した。また、心筋細胞の分化効率は100%ではないため仮に分化後すぐに心筋細胞を移植すると多くの非心筋細胞を同時に移植する事になる。非心筋細胞が心筋細胞の生着を妨げることにより電気生理学的な機能回復の障害となる。大量培養した心筋細胞を純化精製する技術を確立することで心筋細胞のみの移植が可能となり、前臨床試験へとすすむ基盤を確立した。さらに、本プロジェクトの最大のポイントは、心筋細胞特異的に蛍光タンパクを発現するNkx2-5-DsRedノックインiPS細胞とペースメーカー細胞特異的なHCN4のプロモーター下に蛍光タンパクを発現するHCN4-tdTomatoノックインiPS細胞を樹立することができるかにある。ヒトのiPS細胞は一般的に相同組換えの効率がマウスの細胞と比較して非常に悪い。TALE nuclease、CRISPR/Cas9により相同組み替えの効率は飛躍的に高まったが、心筋細胞特異的に遺伝子をノックインしたヒトiPS細胞株の報告は極めて少ない。本年度までにすでにこの目標を達成することができ、細胞の解析を行った。FACSを用いてソーティングした心筋細胞、ペースメーカー細胞を選択的に培養し移植することが可能である。本年度は、テレメトリーシステムによりマイクロミニブタでの不整脈の評価系を確立しており、ブタの心臓電気生理学検査システム構築の目処をつけた。昨年度の研究で免疫抑制剤の種類、量も確定しており、使用するブタの選定も終了している。アブレーションにより洞不全症候群、房室ブロック、リエントリーによる心室頻拍の疾患モデル動物を作製し、心筋細胞、ペースメーカー細胞による移植効果を確認する体制が確立されている。
平成27年度は、純化心筋細胞、ペースメーカー細胞をブタの疾患モデルに移植することで不整脈に対する細胞治療のproof of conceptを確立する。Nkx2-5-DsRed iPS細胞とHCN4-tdTomto iPS細胞をWnt抑制低分子化合物等を用いて心筋細胞に大量に分化誘導する。約2週間の分化誘導後に無ブドウ糖乳酸添加培地を用いて心筋細胞のみを純化精製する。純化心筋細胞をFACSを用いてソーティングすることにより、Ds-Red、tdTomato陽性の心筋細胞のみを選択的に培養する。カテーテルアブレーションを用いる事により、マイクロミニブタの洞結節、房室結節、心室筋を電気的に焼却することでブタの洞不全症候群、房室ブロック、心室頻拍モデルを確立する。疾患モデルブタにはテレモニターを埋め込む事で不整脈の経過観察を可能にする。術後の炎症が治まった時期に細胞移植用のNOGAカテーテルを用いて電位をとることで至適移植部位を同定し、Nkx2-5陽性、HCN4陽性の心筋細胞を移植する。移植細胞を生着させるために免疫抑制剤(ステロイド、MMF、タクロリムス)を経口投与する。テレモニターにて細胞移植による不整脈の治療効果を評価する。治療効果判定後にブタを犠牲死させ、心臓を摘出し病理解析を行う、移植心筋細胞はDs-Red、tdTomatoによる蛍光を持つため、ホストの細胞と識別できる。actinin、troponinTといった心筋細胞特異的なマーカーと共染色することで生着を確認する。また、gap junctionのマーカーであるconnexin43を免疫染色することで移植細胞がホストの心筋細胞とgap junctionを形成して電気的に結合していることを組織学的に確認する。移植細胞数および移植時期の設定を変え、テレモニターによる治療効果の確認と組織学的評価を行い至適移植条件を確立する。
本年度までに心筋細胞の分化、純化法を確定し、さらに心筋細胞特異的な転写因子のNkx2-5およびペースメーカー細胞特異的なHCN4のプロモーター下に遺伝子をノックインしたヒトiPS細胞を樹立した。さらにマイクロミニブタへの移植条件とテレメトリーによる不整脈評価の系を確立した。次年度は移植細胞調整のために大量の培養液が必要であり、ブタの購入費、飼育費にも支出が必要である。また、細胞移植に不可欠な電位測定用、細胞移植用のNOGAカテーテルを備品で購入する必要がある。それゆえ、本年度は研究計画に支障が出ないように無駄な支出を削減して研究資金の出資を調整した。
次年度は細胞移植に不可欠な電位測定用、細胞移植用のNOGAカテーテルを備品で購入する。その他に、移植細胞調整用の細胞培養液、および試薬代、マイクロミニブタの購入および飼育費、学会発表のための参加費および論文発表のための英文校正費等に使用する予定である。
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Stem Cells Translational Medicine
巻: 3 ページ: 1473-83
10.5966/sctm.2014-0072
Journal of Pharmacological Sciences
巻: 125 ページ: 1-5
http://dx.doi.org/10.1254/jphs.14R01CP